第62話 悪役アビロス、魔族と対峙する
エリスの身体から漏れ出た魔力は上空で一つの塊となり、地上に降りてきた。
「シャハハハ! やっと解放されたぜ!」
地上に降り立った塊から這い出してきた魔族。俺の原作知識にある見覚えのあるやつだ。
「デゴン……人型魔族か」
人間のように四肢があり、俺たちとサイズ感は同じ。
「シャハハハ! 俺様の名を知っているとはなぁ~~てめぇ何者だ?」
俺はデゴンの問いかけを無視して思考を巡らせる。
原作ならば、デゴンはマリーナに封印されていた魔族。たしか設定上は魔王直属のなんとか将軍とかだったような。
だが、デゴン自体はこのイベントで倒されてそれっきり出てこないので、魔王との関わりについてはそれほど重要な情報じゃない。
もっとも重要なのはこいつのレベルだ。
このイベントは学園卒業時に発生する。よって入学1年生レベルだと本来であれば勝ち目はほとんどない。
しかし今の俺たちも原作をはるかに上回る成長を遂げている。
ストーリー改変によりレベルの変更が行われていなければ、俺たちの勝率は高いはず。
「おいおいおい~~この俺様を無視とは、最近のガキどもは躾がなっちゃいないようだな」
「あの転移魔法は、おまえのしわざか?」
「シャハハハ! そうだぜぇ~~邪魔が入らないようにそいつを頂かないといけないからなぁ~~~」」
舌なめずりをしながら、エリスに視線をむけるデゴン。
彼女はデゴン復活の魔力放出で気を失っているようだ。
「ふざけるなよ―――おまえはこの場で永久に復活できなくしてやる」
「シャハハハ! そうかい。俺様もお前をぶっ殺したくなってきたぜ~~
―――お、来たな」
来ただと?
「ヒャハハハ! 兄貴ぃいい、楽しそうな事してるじゃねぇか!」
「フャハハハ! アニキぃい、オデも混ぜてくれよ!」
なんだ!?
デゴンが出てきた塊から新たな声が―――
「シャハハハ! 焦るな兄弟! 今から楽しいお遊びタイムだからよ」
塊から姿を現す新たな2体の魔族。
兄弟だと……! デゴン3体かよ!
ストーリー改変の影響か。まさか数が増えてるとは想定外だ。
「シャハハハ―――デゴン長男!」
「ヒャハハハ―――デゴン次男!」
「フャハハハ―――デゴン三男!」
「「「三人揃って――――――デゴン三兄弟!!」」」
チッ、ご丁寧に自己紹介しやがって。
対応メンツを分けるしかないな。本当は集中攻撃で一気に決めたかったが、こうなってしまった以上はしょうがない。
「シャハハハ! 兄弟よ、復活祝いだ! 盛大に殺しまくるぞ! おっと、エリスだけは残しておけ。あの娘には俺様の魔力が少しばかり残っているからな。可愛がったあとに、ちゃ~~んと美味しく食べてやる!」
「ヒャハハハ~うつわまでちゃんと食べてやるとは~~兄貴は優しいなぁ~~」
「アニキ~~お、オデの分も! オデもくいたい!」
こいつら……ふざけるなよ、エリスをなんだと思ってやがる。
が、俺よりもその言葉に強く反応した少女から、凄まじい怒気が膨れ上がっていく。
「―――アビ、もう抑えられそうにない」
マリーナが綺麗な赤毛が、内に秘めた魔力に呼応してザワめきだしてる。
荒ぶる炎が彼女から噴き出すように逆立って、まるで怒りの炎を宿しているかのようだ。
そうだよな。彼女はこの日の為に頑張ってきたんだ。
「マリーナ、デゴン次男を任せられるか?」
「もちろんだ……次男をやったら残りも全部叩きのめしてやる」
赤毛の美少女から凄い気迫を感じる。気合入りまくりだ。
「ステラ、ウルネラはデゴン三男を! ナリサはエリスを頼むぞ!」
頷いたナリサはすでに初級回復魔法をエリスにかけはじめている。ステラにもついてほしかったが、ここで彼女を前線から外すわけにはいかない。
「―――ブレイル! 俺とデゴン長男をやるぞ!」
「う、うん。わかったよ。アビロス君」
「シャハハハ! 人間ごときが上位魔族さまに挑むらしいぜ!」
「ヒャハハハ! 兄貴、やっぱり人間どもってアホだな!」
そんなやつらの嘲笑が終わらぬうちに、即時魔法を発動した2人。
「―――上級聖光弾魔法!」
「―――上級火炎魔法!」
ステラとウルネラだ。
ウルネラのやつ、上級魔法が使えるのかよ。ハハッ、さすがSクラスだぜ!
―――そして燃え盛る赤い炎
「貴様らゲスにはエリスに指一本触れさせん!!
――――――王家の赤い炎槍!!」
深紅に燃える槍が、デゴン次男を襲う。
すげぇ。俺が今まで見た中で一番早くて重い突きだ。
「ブレイル! ライトスラッシュだ! 全力でいけ!」
「わかった! アビロス君!」
俺とブレイルは抜刀するやいなや、デゴン長男まで一気に間合いを詰めた。
「おお~~! 人間にしては早いな!」
その余裕のニヤケ面を――――――今すぐ消してやる!
「―――ライトスラッシュ!」
「くらいやがれ!!
――――――上級重力付与剣!」
アビロスチームとデゴン3兄弟の死闘が始まった。