第61話 悪役アビロス、エリスの真価におどろく
「―――うらぁあああ!」
「フシィイイイイイイイ!!」
俺の黒い斬撃が、キングビーの脚を一本斬り落とす。
どうした? その程度か? 仮にも一種族の頂点に立つ魔物だろうが。
キングビーが傷ついた羽を再び動かし始める。だが上空へは浮上できず、低空を浮いている。
腹部先端からドデカイ針がせり出してきた。
【猛毒ニードル】か―――
キング―ビー最大の攻撃方法。ゲーム原作だと喰らうと無条件に即死判定される技。
「みんな! あの巨大針には触れるな! 即死するぞ!」
しかし、出すのが遅すぎだよ。
万全の状態で初めから全力でくるべきだったな。
俺は【ダークブレイド】に闇魔法を付与すべく魔力を込め始める。
巨大針をぶち込もうと接近した時に終わらしてやる。
「さあこい! キングビー!」
しかしその場から動こうとしないキングビー。
微妙にキングビーの巨体が揺らぎ始めたような錯覚に陥る。
いや―――錯覚じゃない!?
その揺らぎは徐々に大きくなり、キングビーの存在をかき消してしまう。
「消える……だと」
「あ、アビロス! 魔力も感じられません!」
「アビ! 気配も消えているぞ!」
ステラとマリーナの言う通りだ。
あんなにでかい図体なのに、魔力も気配もまったく感じられない。羽の音もしないぞ。本当に消えやがった! まさか……
―――【完全遮断】か!
【完全遮断】は隠密系キャラを極めると手に入る能力だ。
これもストーリー改変の影響なのか。キングビーは本来【完全遮断】など使用できない。
しかし滅茶苦茶だな。こいつ隠密キャラでもなんでもないぞ、でかいハチじゃねぇか。
クソっ……どこにいるかわからねぇ。
「アビロスさま―――10時の方向、距離10メートル! きます!」
エリス!?
俺はエリスの声で咄嗟に後方に飛びながら【ダークブレイド】を縦に構えた。
左10時方向から突然現れる巨大な針が、刃にあたり火花を散らす。
「ぐっ……あぶねぇ……」
エリスの知らせがなければ、ヤバかったぞ。
直前で後方に飛んだおかげで、防御の体勢を整えることができた。
「エリス! 探知できるのか?」
「はい、アビロスさま! 任せてください!」
細腕でガッツポーズを取る金髪の美少女。
魔力も気配も何もないのに探知するだと……マジかよ。
ハハッ、凄いぞエリス。顔つきも昨晩とは大違いだ。
「みんな! エリスの指示で奴の攻撃を見極めろ!」
エリスの奮闘により、俺たちはキングビーの透明攻撃をなんとかかわしていく。
キングビーはすでにかなりのダメージを負っている。さらに【完全遮断】なんて上位能力を連続使用しているんだ。そんな長時間にわたって、この攻撃は維持できないだろう。
「アビロスさま! キングビーが浮上していきます!」
まだ上空にいけるのか!
なけなしの力を使って飛んでいるに違いない。
狙いは……
「キングビーが急降下してきます! ―――アビロスさまの頭上!」
だと思ったよ―――
だがそいつは悪手だぜ。どこから来るか予測してくれって言ってるようなもんだ。
俺はあえてその場から微動だにしない。
「―――上級聖光弾魔法!」
「―――連続赤い炎槍ぁああ!」
側面から光の光弾と赤い槍撃が、急降下して来たキングビーの横っ腹に強烈な一撃を与えた。
ほらな。
俺はお前と違って仲間がいるんだよ―――
「フシャアアアアア!!」
側面に強烈な打撃を受けて、体勢を大きく崩すキングビー。【完全遮断】能力が解除されて、その巨体が露わになる。
ブブ……ブブブ……
羽を無理やり動かして、再度巨大針をこちらに向けようとする。
「そんなチャンスを―――与えるわけがないだろうが!
――――――上級重力付与剣!!」
超重力が加わった黒い斬撃が、キングビーの頭部を直撃した。
ミシっと頭部が潰れて、そのまま仰向けに地響きを立てて崩れ落ちる巨大なハチ。
「ふう……手強かったが。俺たちを舐めてかかったのが運のつきだ」
「アビロス! やりましたね!」
「ハ~ハッハ、最後はアビに取られたか!」
ステラとマリーナが笑顔で駆け寄ってきた。
「お、おい……ステラ」
「アビロス。私たちがサポートしたからいいものの、あんまり無茶はしないでください」
ステラがその勢いのまま、俺の胸に飛び込んできた。
そして口をとがらせて、眉をキュッと寄せる。
「お……おう」
2人の魔力が急激に上がっていくのを感じたので、間違いなくサポートは入ると思って回避って選択肢ははなっから除外してたんだが……
たしかに、ちょっと雑なやり方だったかもしれないな。
「悪かったよ。以後気を付ける」
そう言うと、ステラはニッコリと微笑み、俺から離れて後ろを向いた。
「さあ、エリスさまもどうぞ」
「ええ! わ、わたくしもですか!」
ステラに不意を突かれたのか、声のトーンが若干おかしいエリス。
「そ、その……アビロスさま。わたくし、お役に立てたでしょうか?」
役に立ったかだと?
「ああ、もちろんだ。エリスがいたからみんな無事なんだ。訓練の成果は十分すぎるほどに出たよ。」
【完全遮断】した対象物ですら探知できる魔法なんて、聞いたことがない。
「ほ、本当ですか……!?」」
「これ以上求めたら罰が当たるぞ」
小さな声で「やった」と呟いたエリス。
初日のどんよりした顔はもうそこには無かった。
「飛び込まなくていいんですか?」
「そ……それは。ちょっと無理そうです……」
ステラに茶化されるエリス。
なんかこの2人、今朝からやけに仲良くないか?
「よし! エリス、探知魔法はまだ使用できるか? 悪いが休みなしで森を抜けるぞ!」
森の異変の原因であろうキングビーは討伐したが、森を抜けないといけない。
他にも魔物はウヨウヨいるからな。
エリスから元気の良い返事を期待したが、その返答は無かった。
返事の代わりに俺の腕の中に崩れ落ちるエリス。
「―――お、おい! エリス!!」
――――――なんだこの魔力は!?
「これは……アビロス! 魔族の魔力です!!」
俺の腕の中にいるエリスから、おぞましい魔力が漏れ出しはじめている。
彼女の中に封印されている魔族か。
このタイミングで登場かよ……
―――いいだろう。
魔族なんざさっさとシバいて、エリスを開放してやるまでだ。