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第6話 悪役アビロスの決意と聖女の想い

「――――――えいっ!」


 ステラの振り下ろした聖杖は、魔族ガルバの弱点である角に直撃した。

 聖属性の象徴でもある白銀の輝きが、ガルバの頭部を中心にはじけ飛ぶ。



「ギギ……グギャアア……ア……ァ……」



 断末魔の叫びをあげて、ボロボロと消滅していくガルバ。


 ステラは打撃の衝撃でその小さな体が弾き飛び、再び宙を舞う。


 俺は最後の力を振り絞って彼女の元へ走り、そのまま受け止めた。


「―――キャッ!」


 彼女が頭を打たないよう、包み込むように優しくキャッチだ。


「大丈夫か?」

「え……ええ」

「ケガしてないか?」

「え……ええ」

「凄いぞ、まさか魔族を倒しちゃうなんて」

「え……ええ」


「ステラ―――?」


 なんだ、さっきからモジモジと。


「その……取り合えず降ろしてください……」


 え?



 うおっ! 聖女を抱きしめてた、お姫様だっこで……



 俺はステラを速攻で降ろして、少し距離を取る。


 聖女からの視線を強く感じる。どういう表情が怖くて見れないが、存在自体を忌み嫌っている悪役キャラに馬に乗せられたり、抱っこされたり、空から落とされたりしたんだ。

 間違いなく俺の評価はダダ下がりだろうな。


「ご、ごめん……」

「い、いえ……私を気遣ってくれての行為という事はわかります……」



「「………」」



 ぐっ……なにこの間。


 というかこのイベントは、本来ゲーム主人公がヒロインである聖女ステラを救うはずなんだよ。

 しかし悪役の俺が救ってしまった……


 だが、あのまま何もしなければ2人ともこの世にはいなかっただろう。


「あの……」


 暫く黙っていたステラが再び口を開いた。


「助けてくれてありがとうございます」


「お……おう」


「あなたが変わろうとしていることは良く分かりました。他人のために動けたのですから」


「おお……おう」


 あれ?


 意外にも俺の評価は回復しているのか? これ?


「―――ですが!」


 んん?


「女の子のスカートをめくるとか! あり得ないですからねっ! 今度やったら本当に張ったおしますからね!」


「……はい」


 鼻をツンと上げて両腕を組む聖女様。


 評価が回復したのかどうかはイマイチわからんが、とにかく聖女出会いイベントを悪役アビロスの俺が消化してしまったことは間違いない。


 ゲーム主人公が、ヒロインのステラに出会わないということはないだろう。なにせ俺たちは5年後に学園に入学する予定だ。本来のゲームスタート地点である。主人公も当然入学する。


 が、何をきっかけに仲良くなるのかは、もはや分からない。

 このゲーム「ブレイブパーティー(ブレパ)」のストーリーは間違いなく改変が始まっている。


 魔族ガルバについてだが、単に聖属性の力を持っているから襲われたのだろう。てことにしておいた。

 いま、魔王復活のきざしとか言っても意味不明だろうし。


 ふぅ~~この短期間で、色々な事が起こりまくったな。


 だが―――


 こんなことぐらいでは挫けんぞ。俺は絶対に破滅回避してやる。


 にしても、今回の件でアビロスの戦闘がヘボすぎることを思い知らされた。このままじゃダメだ。これは貴族パワーをフル活用して、優良講師を頼む必要がありそうだ。


 どんな破滅フラグが来ても対応できるように。


 俺は―――


 ――――――強くなる。


 以前の悪役貴族アビロスではないのだ。



 俺は、アビロスは、変わるんだ! クソ悪役アビロスは卒業だ!



「なんですかアビロス。一人でウンウン頷いて? さあいったん屋敷に戻りましょうか」



『―――ゲヘへヘ~おい聖女、戻る前におまえの黒パンツもう一回見せろや』



 ―――よし、おまえは黙ろうか。元悪役アビロスよ。


「まあ、アビロスたら。面白い冗談ですね。フフ」


 聖女の目が全然笑っていない……怖い……


 その後、俺は聖女にガチで説教をくらうのであった。

 最後にステラ評価が下がったのは言うまでもない。


 にしても、このちょくちょく勝手にしゃべる口、やっかいにも程があるぞ。俺の中の悪役アビロスよ。




 ◇◇◇




 ◇聖女ステラ視点◇


 ~帰りの馬車内にて~


「ふぅ~~」


 ようやく一息つけました。今日はあまりにも色んな事が起こりすぎて。


 初めて戦闘というものを経験しました。

 物凄く怖かったです。本当はすぐにでも逃げ出したかったのですが。


 あの場で魔族に有効打を与えることができるのは、私だけ。

 一人勝手に逃げるわけにはいきません。


 でも、勝利に導いたのは間違いなくアビロスです。

 彼がいなければ、恐らく私はこの馬車に乗れなかったでしょう。



 ―――あの人、本当にアビロスですか?



 少なくとも今日のアビロスに会うまでは、彼に良い印象は全くありませんでした。

 というか、嫌いでした。


 でも、今日は魔族の攻撃から私を守ってくれました。体を張って。

 それにちゃんと謝ることもできるようになってました。



 うまくは言えないですが、以前とは変わったようですね。彼特有の嫌な気配がほとんどしなくなりました。



 でも時折、以前のアビロスみたいな発言してきたり……

 私をものにしたいとかっ! そういうのは、も、もっと紳士的な言い方をして欲しいです。 


 あと、あと、あと……乙女のパンツを……見られてしまいました……恥ずかしすぎます。


 ああ~~~もう!  



 どっちなんですか、アビロス!



 ハッキリしなさい!


 今日のアビロスが本当のアビロスなら……いえいえ! 何を考えているのですか私。うぅ~なんだかモヤモヤします……なんなのこれ。


 アビロス! 言っておきますが、まだ認めたわけではありませんからねっ!

 今までの悪行はちゃんと覚えてますから! お風呂のぞこうとしたり! 毛虫をたくさん髪の毛に絡ませたり! あと、落とし穴に3回落とされたし。



 そう簡単には許さないんだから!



 ふぅ~~心の中で叫びまくったらスッキリしました。


 にしても私、圧倒的に力不足ですね。もちろん力に訴えるようなことはしたくありませんが、今日のような理不尽な暴力に対抗できる力は必要です。

 言葉を交わしても、分かり合えない時もあるでしょうし。


 もっと訓練を積まないと……


 お屋敷に戻ったら、お父様に特別な講師をお願いしようかしら。


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