第59話 悪役アビロス、ブレイル(主人公)の秘密にせまる
「あら、アビロス? どうしたんです。ボロボロですよ?」
「まあ、アビロスさま、そんな傷まみれで。大丈夫ですか?」
銀髪の聖女ステラと金髪の王女エリスが不思議そうに俺を見る。
俺は食事の手を止めた。
「いや、ちょっと朝練をやりすぎただけだ」
マリーナのやつめ、ガチの全力で打ち込んできやがった。
体中が痛い。
「そうですか。訓練はいいですがほどほどにしてくださいよ」
「ああ、わかっているステラ」
まったく……誰のおかげでこうなったと思ってるんだ。
しかしステラたちの様子を見る限り、俺は何もやらかしてはいないようだ。
取り合えずはホッとして、朝食のパンを再び口に運ぶ。
「―――よし、食事をしながら聞け!」
俺たちが朝食を取っていると、ラビア先生が野営地の中央で声をあげた。
「食事が済み次第、各チームは植物採取に向かえ! 今日の夕飯はおまえたちが取って来た草だ! 食える草を取ってこいよ!」
植物採取イベント。原作にはないイベントだ。
本来ならば魔物の森に入るところを予定変更したからな。
よって、俺も何が起こるかはわからん。
◇◇◇
植物採取にあたり次の事が決められた。
各チームは探索エリアを決めてラビア先生に報告する。
また不測の事態が起これば、魔法を上空に3発打ち上げること。
なにか起こった際に、ラビア先生が出来る限り早く駆けつけるためだ。
野営地を離れて小一時間。もうすぐおれたちの探索エリアに到着する。
といっても、森には入らない。あくまで森の外周部分での活動だ。
「わ~い、草~草~~」
「フフ、ブレイルさんたら。嬉しそうですね」
「うん、聖女さま。僕はすっごい田舎農家の生まれだから。けっこう野草とか食べてたんだよ~~」
「まあ、それは頼もしいですね。私も教会で一通りの野草は学びました、ともに頑張りましょう」
「そっか~~じゃあ美味しい草をいっぱい食べれそうだね~」
主人公と聖女か。
本来おまえたちがペアとなってストーリーを進めていくんだよな。
そんな2人を見ていると、ブレイルがおもむろに地面の草を手に取った。
「こういうのとか~~美味しいよ~~モグモグ~~」
おい! ブレイル勝手に食うなよ……
いかに野草に詳しくても、今回はチームプレイだ。みんなで集めて、みんなで判断する。
俺は、ブレイルの元に行った。
その瞬間、ステラが顔を真っ青にして叫ぶ。
「ああ! それはわらい草で……食べたら―――笑い死にします!」
「―――なにぃいいい! ブレイル吐け! 吐くんだ!」
俺はブレイルの背中をドンドンと叩いた。
なにが詳しいだよ! アホか、死んじまうぞ!
「うわっ! うっぷぅ……アビロス君、なにするの~~ごっくん!」
飲むんじゃねぇえええ!!
なにやってんだ!
「ステラ、常態異常回復魔法をはやく―――」
「ええ、アビロス!」
だが、ステラが詠唱を開始するまえに、むっくり起き上がるブレイル。
ケロッとしてやがる!?
頭のネジが取れてしまったのか?
「あ~~美味しかった~~」
なんだと……
「あれ? 2人とも、どうしたの?」
「ステラ、これはどういうことなんだ?」
「アビロス、私にもわかりません。わらい草を食べて無事な人とかよくわかりません」
聖女をして、よくわからない人。
このゲームの主人公なんだが。
「やっぱりわらい草は大好き~~畑仕事しながらいつもつまんじゃうんだよね~~」
いつもだと……
おい、まさかこれ毎日食ってたのかブレイル……
「ぶ、ブレイルさん……体調は? お腹の具合は大丈夫なのですか?」
「ええ? もちろんだよ~食べちゃダメだった? でも、おなか下した事とか無いけどなぁ~~」
ブレイルよ、それはたぶん主人公耐性だ。
普通の人なら死んでるぞ。
にしても主人公の高スペックをそんな耐性に使うなよ……
そして俺の中で仮説が立てられる。
ブレイル……
おまえのその良く分からんキャラ、それを作ったのはこの草なんじゃないか。
本来ならば笑い死にする草だぞ。いかにゲーム上の主人公チート耐性があるからといって、影響が全くないとは思えない。
これがストーリー改変の影響なのかはわからない。
が、平気だからといって。こんなものを永久に食べさせるわけにはいかない。
「とにかく……ブレイル、いきなり草を食べるな」
「うん! わかった。アビロス君!」
屈託のない笑顔をみせる主人公。無邪気と言うか打算がないというか。
序盤から良く分からない展開になってしまったが、その後は気を取り直して植物採取にいそしんだ俺たち。
探索エリアには様々な種類の植物が自生しており、けっこう楽しめた。
ブレイルだけは猛毒の草をやたら取って来るので、ポイさせたが。
「さて、こんなもんでいいだろう」
俺はみんなを集めて、帰路に就くことを伝える。
「アビロス、色々採取できましたね」
「聖女さま、これお肌にいいんだよね。最高っしょ!」
「こちらの薬草は疲労回復効果があるみたいです。わたくしお夕飯が楽しみです」
みんな満足そうな顔をしている。
いや、原作にはないイベントだったが、これはこれで良かったな。
しかし帰り支度を始める俺たちに異変が起こる。
「……光!?」
「え? なにこれ!?」
突如、俺たち全員を囲むように光が浮かび上がった。
「あ、アビロス! これは魔法陣です!」
そう叫んだステラの姿が消えていく。
マリーナもエリスも、みんな。
「―――チッ、転移魔法陣か!」
俺の身体もみんなと同じようにその場から消えていく―――
なるほど、そう簡単には終わるわけはないか。