第58話 悪役アビロス、まさかの緊急事態(朝チュン?)に焦りまくる
チュンチュン……
小鳥の泣き声が、俺に朝の到来を告げてくれる。
いい朝だ。さてと起きるか―――
もにゅん!
動かした俺の腕になにか柔らかいものが当たった。
なんだ、ブレイルの奴か? ったく寝相の悪い奴だ。
「「ん……んん……」」
寝ぼけているのか、ブレイルがモゾモゾと俺の腕にしがみついてきて、再びスースーと寝息を立てる。
なぜか俺の右腕と左腕をがっちりホールドするブレイル。
なんだこのタユンポヨンな感触は。
あいつ、きのう晩飯を食べ過ぎたのか?
そもそもブレイルがなんで両脇にいるんだ? あいつ双子だっけか?
相変わらず俺の両手の感触は柔らかい。マシュマロみたいだ。
取り合えず男であるブレイルにしがみつかれているのは、普通に気持ち悪い。
両手に絡む腕を抜き取って―――!?
なんだこれ!?
めちゃくちゃタユンポヨンしてるぞ!
しかもなんか2つある!
左右合計4つあるぞ!
「「ん……んん……」」
なんかブレイルの声がやけに可愛く感じる……
やめれくれ……俺はなにを感じている?
とにかく両脇のブレイルを引きはがそうと、寝ぼけた目をしっかりと開けると……
―――んん?
ブレイルってこんな顔だっけか?
あいつは美少年ではあるが、これじゃ美少女だぞ?
俺は寝ぼけた目をゴシゴシこすって再度見る。
―――んんんんんん!?
まて、まてまてまて!
―――ブレイルじゃない?
いやいやいや、寝ぼけんてんだ俺。そうだ昨日はブレイルがゴロゴロこっち転がってきて寝つきが悪かったからな。
再度目を見開いてみた―――
ブレイルは……テントの端っこに転がっていた。
そして俺の両脇には―――
―――銀髪の美少女ステラ
―――金髪の美少女エリス
――――――聖女と王女じゃねぇかぁあああ!
チュンチュン……
とたんに、小鳥の泣き声がすさまじく意味深な音に聞こえはじめた。
やめてくれ……
スヤスヤと寝息を立てる2人の美少女。
どういうこと?
なぜ2人が俺の横で寝ているんだ?
チュンチュン……
これ――――――朝チュンじゃないですよねぇええ!
やってしまったのか?
もしかして俺は終わったのか?
聖女に手を出して……全ての教会と国民からヘイト溜めまくり―――
王女に手を出して……王国そのものからヘイトを溜めまくり―――
聖女・王女同時ハレンチ卑猥暴行罪とかで、公開ギロチン刑なのか?
ゲーム原作の破滅とかと全然関係ないところでゲームオーバーかよ……悲しすぎないか。
いや、まてまて! 落ち着け!
いったん冷静になるんだ俺!
俺の両脇でスヤスヤ眠る天使2人に―――何かをする?
そんな鬼畜ムーブをしたのか? 俺は?
普通に昨日の記憶を辿っても、そんなことに至った覚えが一切ないじゃないか。
うん、やはり俺は何もしてないんじゃないか?
そうだよ、理由はわからんが、たまたま美少女2人が横で寝ていただけだ。
たまたま……
たまたまだろうが、この状況はとにかくマズイ。
ここを見られたら一発アウトだ。問答無用で首が飛ぶ。
何とか抜け出さないと……
「「ん……んんっ……んん」」
俺がもがくと、2人はより俺の腕にしがみついてくる。寝ぼけているのか。
もにゅん!!
―――ふはぁあああ!
ちょっと待て!
俺の両腕が膨らみに完全に挟まれましたけど!
しかも両方なんですけど!!
クッ……抜け出せない!
もうそこら中タユンポヨンしてやがる!
足掻けば足掻くほどタユンに埋もれていく、なんて技だ……このままだと俺の自我が崩壊してしまう。
ザッザッザッ―――
誰かきた!!
「おい、アビ? 起きているか?」
テントの外から聞こえる声、マリーナか!?
ヤバイ、これはヤバすぎる! エリスとのこんな状態見られたら……確実に殺される!
「あ、ああ。いま起きたところだ」
「おお、良かった。朝練に付き合ってくれ!」
「いや、ちょっとその……今は」
「なんだ? いつものお前らしくもなく歯切れが悪いな」
「んん~~アビロス君~~ぼくおしっこ……」
こんな危機的状況で、むくりと起き上がったブレイルが、寝ぼけながらテントの出口へ向かう。
あ、まてブレイル!
―――テントを開けるんじゃない!!
ガバっとテントが開き、朝日が眩しく俺を照らした。
「ほう……かわいい妹と聖女を同時にか。王城ではわたしとの同衾を断っておきながら、やるじゃないかアビ」
そこには仁王立ちで、血管をヒクつかせている第三王女がいた。
「さて、朝練に行こうか。なぜか力がみなぎってきたよ。ちょっとやりすぎてしまうかもな、楽しみだアビ」
なるほど、こんなところにも死亡フラグが隠されていたとはな。
―――こんなもん回避できるかぁああ!!