第57話 聖女ステラ視点、ライバルはベストの状態にして勝つ
「アビロス、ステラどう思う?」
「はい、ラビア先生。おそらくは奥地にもっと強い個体がいるのかと」
アビロスと私は、ラビア先生にジャイアントビーの一件を報告していた。
「そう考えるのが道理だな。突然変異か、他から来たのか。いずれにせよ森での戦闘演習はなしにする。野営地付近での植物採取までだ」
「ですね。俺もそれがいいと思います」
「私もラビア先生の意見に賛成です」
こんな状況で奥地にまで行くのはリスクが高いですから。演習を中止せずに続けるなら、妥当な対応だと思います。
「フフ、なんだか行きたそうな顔をしているな、アビロス」
「え? いや……どんなやつか見てみたかったってのはありますよ」
「おまえとステラだけなら容赦なく奥地に放り込むんだが、この大所帯ではな」
ラビア先生が、各々夕飯の準備をする生徒たちを見回す。
フフ、相変わらずですね。この先生。
はじめてご指導いただいた時から、貴族令嬢の淑女な扱いはこれっぽちもされないです。
でもそのおかげで、ここまで強くなれたんですけどね。
「ステラの夕食か~~いや~~楽しみだな~~」
笑顔で私を見つめるアビロス。その瞳が大きく開かれて期待にランランと揺れています。
―――もう、そんなに無邪気にはしゃがないでください。子供ですか。
―――頑張っちゃいますよ。
アビロスが期待してくれているのですから。
◇◇◇
さて、手元にある食材は。
・バラの骨付き肉
・トウモロコシ
・卵
・バター
持ち込みが出来る食材で鮮度が持つのは今日まで。
明日からは携帯食料の日々です。なら今日はいいもの作りましょう。
はい、決まりました。
お肉は、スペアリブにします。
あとの食材はコーンスープにしましょう。
―――アビロスに選んでもらったまな板を出して。
ふふ、アビロスったら、私の手料理毎日食べたいとか言っちゃて~~
新居を構えるなら、お台所が広いお屋敷がいいですね。
シェフは雇いますけど、私もお料理を作るから、そうなるとシェフの方はやりずらいでしょうか?
う~ん、でも雇わないというわけにも……私も聖女として貴族としてのお勤めはありますからね。
アビロスに相談しないと……って!
なにニヤけた顔してるんです! 私!
けません、手が止まってました……お料理しないと!
ちょっと妄想がすぎました。
~それからしばしの間、料理に集中~
「よし、こんなもんですかね」
準備したお料理は2品。
野営地にしてはいいものができました。
「では、最後に―――」
聖杖を掲げて、祈りを捧げます。
最後のは秘密の味付けです。
「おお! ステラ! できたのか? できたんだな!」
早速アビロスが来ました。
そして、それに続いてみなさんも。
焚き木の周りに座って、食事をはじめます。
「す、すごい! お料理全体が輝いている……!?」
「ハ~ハッハ。ステラはなんでもできるな! これはうまい!」
「聖女さまって才女だね~~こんなお嫁さんいたら最高っしょ」
「う、うわ~~すごい、このコーンスープどうやって作ったの? 野菜もはいってるよ~~」
良かった。満足頂けたようです。
ちなみに最後の味付けは、聖女の力である【祝福】をお料理にふりまいたんです。
効果は……食べた人それぞれに少しだけ幸福を与えます。
まあ、ちょっとズルですけどね。
でも使えるものは全て使え。これラビア先生の大事な教えです。
さて―――私の本命さんに感想を伺いましょうか。
「アビロス、どうですか?」
「おお! ステラ! 美味い! モグっ! う、うま! こ、このにく! モグモグ!!」
お行儀が悪いですよ。話すか食べるかどっちかになさい。
でも……一番欲しい人から、一番うれしいお言葉を頂きました。
はぁ~~もう満足です。なんかおなかいっぱいな気分。
でも明日も実習は続きますからね。私も少しはお腹に入れておかないと。
みなさんにも好評なようで良かったです。楽しそうでなにより。
一番隅っこでどんよりしている姫君以外は……
「―――エリスさま、お味はいかがですか?」
「おいしいです……ステラさま」
エリスさまは力なく俯く。
食事の手もあまり進んでいないようだった。
ふぅ―――しょうがないですね。
◇◇◇
食事後は簡単に明日のミーティングを済ませて、お片付け。
そして、就寝です。
女性用のテントではすでにナリサさん、ウルネラさんが熟睡してますね。
疲れが溜まっていたのでしょう。すぐに寝れるのはいいことです。
私もすぐに寝たいところですが、やることがあります。
スッと寝袋から出て、寝間着の上に制服のブレザーを羽織る。
「ステラ―――」
私を呼び止めたのは、マリーナさま。
「大丈夫です。すこし妹君をお借りしますね」
「ああ、すまないな。あのとおり不器用な子なんだ。今はわたしよりステラの方がいいだろう」
フフ、マリーナさまは本当に妹君を大切にしてますね。
テントから出ると、エリスさまは焚き木の前にポツンと佇んでいた。
「となりよろしいですか?」
「はい……ステラさま……」
「眠れませんか?」
「はい……寝る気になれません。せっかく訓練して頂いたのに……」
エリスさまが俯きながらポソっと呟いた。
「はじめて魔族と戦った時―――アビロスも私も今のエリスさまと変わりませんでしたよ」
「え……アビロスさまやステラさまが……わたくしと一緒!? ウソ……」
「フフ、ウソなんかじゃありません。アビロスなんてスカートをめくる魔法しか使えませんでした」
「それって、わたくしを助けて頂いたときの魔法ですね」
「そうです。ちょっと聞いてください。酷いんですよ! 私、その時もめくられたんですからっ!」
「まあ、アビロスさまったら、フフフ」
「やっと顔を上げましたね。エリスさま」
エリスさまは、ハッとして私に視線を向ける。
「あ、ありがとうございます……わたくしの為に」
さてと、あとは元気を取り戻してもらいましょうか。
これは彼女にもしっかりと宣言しておかないといけないですし。
「ふふ、あとライバルとしても負けませんよ。アビロスは渡しません。どちらかというと今日の本題はそこでした」
「す、ステラさま……」
「まあ、今のエリスさまには負ける気がしませんけどね」
「わ、わたくしだって負けません! 今からアビロスさまと思い出いっぱい作るんだから!」
エリスさまは私の瞳をキッと見据えて、両手をグッと握る。
「なるほど、やっぱり強敵かもしれませんね、フフ」
「あ……ステラさま。私……!」
その瞳の奥に活力が出てきたエリスさま。
はぁ~~ライバルを復活させちゃいました。
でも、まったく負ける気はありませんよ。たとえ王女が相手だろうが。
ですが、今日は休戦としましょう。
「さて、元気の戻ったエリスさま」
「はい? なんでしょう元気を戻してくれたステラさま?」
「今日は頑張りましたよね、私たち」
「えと、そうですね」
「でしたら―――ご褒美をもらわないと」
「そういうものなんでしょうか?」
「当たり前です! 頑張った女の子にご褒美をあげられない男はダメです!」
「え? 男? ごほうびって……誰から貰う気なのでしょうか?」
エリスさまは目を白黒させてわたしを見つめた。
「はい、あそこです―――ご褒美」
私は小さなテントを指さしました。
「ふふ、じゃあ2人で行きましょうか」
「え? え? 行く?? アビロスさまのテント……えぇええええ!?」
「エリスさま? 行かないんですか? では私だけで―――」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!」
「どうしたんです? 行かないのでは?」
「わ、わたくしも、い、い、い、いきまひゅ」
ふふ、かわいいですねエリスさま。
なにを想像してらしゃるのでしょう?
ちょっと、アビロスの寝顔を見るだけですよ。
まあ、状況にっよては添い寝ぐらいは……って何考えているんですか私!
その夜、アビロスのテントに聖女と王女の影が潜り込んでいくのであった。