第49話 悪役アビロス、聖女・王女たちと焼肉へ行く
「あ、あの、アビロスさま、みなさま。今日はわたくしもお招き頂きありがとうございます」
第4王女のエリスが丁寧なお辞儀をする。
ここは王都にある焼肉屋だ。短期間に色々あったので、ぱぁ~と楽しもうぜってことで、みんなで来たのである。
「わあ~~エリス様も来てくれて嬉しいです~~」
マリーナとエリスにはさまれて、キャッキャッするララ。
なぜか2人の王女に完全に気に入られたっぽい。まあ、唇をつけあった仲ではあるしな。
エリスがSクラスに入った表向きの理由は、それに足る成績をおさめたとのことだが、魔族封印の件も関わっているのだろう。
同じクラスにいれば、マリーナも常に傍にいてやれる。
「エリス、焼肉に遠慮はいらないぞ。思いっきり食べてくれ」
ちなみに俺は第4王女をエリスと呼び捨てである。
だって、どうしてもそうしてくれとエリスに言われたから。
「は、はい! アビロスさま! わたくし焼肉初めてです! 楽しみです」
そしてなぜかエリスは俺を様呼びという……王族の考えることは良く分からん。
エリスは淡いクリーム色のワンピースを着ており、黄金色の髪をキュッと後ろで止めている。
ふむ、とても可愛らしい。
が―――こいつは着けてもらう。
「ひゃぁ! あ、アビロスさま……!?」
「エリス、焼肉初心者ならばエプロンは必須だぞ」
「は……はい。ありがとうございます」
俯いて頬を赤めるエリス。まあ本来エプロンなんぞ付けたくないのはわかる。
が―――つけなくていいのは俺のような上級者だけだ。
「アビロっち……ナリサにもつけてあげて」
俺の耳元でウルネラが囁いた。
―――そうか、ナリサも焼肉初心者か。よかろう。
「え? アビロス君!? あ……ありがとう」
ナリサの顔が真っ赤だ。たしかにエプロンは初心者の象徴だ(←違います)
だが、恥じることは無い。
少しづつ、極めて行けばいいのだ。
何度も言うようだが、エプロンなしは上級者だからこそできる。
そう―――この俺のように。
おれが自分の席に座ると、服の袖をちょいちょい引っ張られた。
ステラだ。
ハハッ、わかっている。忘れるわけがないだろ。
俺は聖女にエプロンをかけてやった。
なにせ、純白の制服だからな。なんなら2重でもいいぐらいだ。
「ありがとう、アビロス」
「おう、当たり前だ。いつでもつけてやる」
「はい、《《前回もアビロスにかけてもらいました》》から、これからも《《ずっとアビロスにつけてもらいます》》」
それは言わなくてもいいのでは?
ステラもいつかはエプロン卒業を目指さなければならない。
エリスやナリサがピクッとしてムゥ……とか言っているぞ。
いや、まてよ。初心者であることを恥じないという心意気のあらわれか。
なるほど、さすが聖女だ。他者を思いやってこその「安心してください、わたしも初心者です」発言というわけか。
ふむ、他の者もみなエプロンを着用したようだな。
では、肉を焼いていくか――――――って!!
「おい、ブレイル……なにをやっている?」
「アビロス君~~みんなの分も置いてみたよ~~」
それはいいことだ。
だがな……
―――野菜で網を埋めるんじゃない!
これじゃあ野菜炒めになってしまうだろ。
「うわ~~ブレイルさん野菜好きですか~~」
「ふふ、野菜を焼くときのブレイルさんはいい笑顔ですね」
「ハ~ハッハ、ブレイル野菜まみれじゃないか~~だが豪快でいいぞ!」
いや……そうだよな。なにを心の狭い事言ってんだ俺は。
四の五の言わずに食べればいいよな。
みんなでブレイルの焼いた野菜を食べる。
網で焼くとまたいつもと違った味がして―――美味い!
そして~~お待ちかねのお肉様の登場だぜ!
「褒美で貰った万能タレをつけて―――」
――――――!?
美味いっ!!
やっぱ、焼肉は肉だぜ!
しかもこの万能タレ、使用者の気持ちに合わせて味が変わるぞ!
醤油べーす、塩ベースなど、気分によりベストの味にしてくれる。
いや、最高かよ。
〖聖女ステラ……美味しいですね〗
「ええ、次はロースを焼きますね」
ステラ!?
誰としゃべってんだ? いやこの声どこかで……
「おい……もしかして女神か?」
〖聖女ステラ! ロースですか? 上ロースですか! それは上なんですか!!〗
話を聞けよ!
女神が上とか言うんじゃない!
「アビロス、女神さまは時折降臨されるのです」
「そ、そうなのか。天啓でも授けるのか? 女神」
〖天啓? アビロス、何を言っているのですか? 焼肉を食べに来たんです〗
「焼肉だと……」
〖だって、こんなにいい匂いがしたら誰でも出てくるでしょう〗
たしかに……焼肉の力は偉大だ。女神が出てきてもおかしくはないか。
―――いやいや、やっぱおかしいだろ!
「しかし、実体もなく味なんかわかるのか?」
〖アビロス、女神の力を侮ってはなりません。聖女ステラを通じて、焼肉を楽しむことができるのです。どうですか? 凄いでしょモグモグ〗
「お……おう」
なにに力を使っているんだ、この女神。
ゲーム原作を逸脱しすぎてる……これもストーリー改変の影響か?
〖―――聖女ステラ、そこのカルビもいきたいです〗
おい、女神。自由すぎるぞ。
「わぁ~~女神さまと焼肉~楽しいです~~」
「わ、わたくし初めて女神さまのお声を聞きました。しかもご一緒に食べられるなんて!」
「女神さまと焼肉とか~~うける~楽しいね~~」
〖そうですね、わたしもみなさんと食べることが出来て嬉しいですよ〗
みんなで食べるか―――
前世でも、こんなにワイワイみんなで焼肉食べるなんて無かったよな。
基本、1人焼肉だった。
みんなで食べたら、こんなにも美味いのか……
悪役に転生した時は終わったかと思ったけど。
俺は案外いい人生を送れているのかもしれない。
〖ところでアビロス―――なぜ、あなただけエプロンをつけていないのですか?〗
ハハッ、面白い事をいう女神だ。
「決まっている。俺は焼肉マスターだ。一滴の肉汁ものがさな―――」
〖―――聖女ステラ、そこのタレを取ってください〗
おい、聞けよ! 人の話を! 振っといてどういうことだ。
〖まあ! タレとごはんだけでもいけそう! 最高の組み合わせですね♡―――はい、続けてくださいアビロス〗
ぐっ……
「だから俺は焼肉マスターなんだ。上級者はエプロンはつけない! 跳ねた肉汁を逃すなどあり得ないからな」
〖……………〗
ハハッ、どうだ女神。
俺の凄さが分かったのだろう。黙ったようだな。
「「「あ! アビロス」さま」君」
いきなり3人の美少女が寄ってきた。なに? どうした??
ステラが純白のハンカチで俺の口元を
エリスが金色のハンカチで俺の胸元を
ナリサが桃色のハンカチで俺の腕を
フキフキフキ
「ああ~~ご主人様~~またベチョベチョです~~」
くっ……俺は焼肉マスター! エプロンなんぞつけん!