第48話 聖女のハグと新たなクラスメイト(ブレイルたち)……って、たち!?
◇聖女ステラ視点◇
王城で一泊したあと、私たちは帰路につきました。
「ふわ~~豪華な馬車です~~」
「そうね、ララちゃん……」
王城から出してくれた馬車のなかで、無邪気にはしゃぐララちゃん。
どうしましょう……解毒のためとはいえ、ララちゃんとあんなこと~~~っ!
唇の感覚を忘れようとしても、ララちゃんの顔を見るとその抵抗むなしくハッキリと―――
自分の内から湧き出る羞恥心にいたたまれなくなって、無理やり向かいに座るアビロスに視線を移す。
どうせならアビロスが解毒してくれれば……ハッ、なんか想像したら顔が熱くなってきました……
聖女なのに……はしたないのでしょうか。
それにしても、第3王女のマリーナさまに加えて第4王女のエリスさままで……それにナリサさんやウルネラさんもお綺麗ですし。
入学して間もないというのに、どんどん強敵が増えていきます。
くっ……わかってたことじゃないですか! しっかりしなさいステラ!
やっぱりアクションです。私からなにかやらないと……でも、なにをしたらいいのでしょう?
「にしてもステラは女子寮なんだから、ナリサたちの馬車に乗らなくて良かったのか?」
「アビロス! もう約束忘れちゃったのですか?」
「え? 約束?」
「ずっと傍で守ってくれるって言ったじゃないですか……」
「お、おう……そうだな」
「ってことは、アビロスは私から離れちゃダメです」
「そ、そうだよな。うん、わかった。変な事言って悪かった、女子寮まで安心しろ」
「違います! 《《ずっと》》です!」
「……はい」
なんですか! 人の気も知らないで!
1秒でも長く一緒にいたいに決まってるじゃないですか!
って言わなきゃわかんないですよね……わかっているんですけど……
―――ガタンッ!
そんななんともいえないもどかしさを感じていると、馬車が大きく揺れた。
「キャッ!」
勢いでアビロスの胸に飛び込んでしまいました。
でも、いい匂いです。なんだか安心できる匂い……
あら? なにか違う匂が……
クンクン
「あの……聖女様?」
クンクンクン
「おい……ステラ? なにやっている……」
「アビロスじゃない匂いがします」
「えっ!?」
「どういうことですか?」
「えっと……これは」
アビロスを問い詰めると、第4王女エリスさまの封印についての話を聞かされました。
「やはり魔族が関係していましたか」
「ああ、そうだな。この件は胸の奥にしまっておいてくれ」
私とララちゃんはコクリ頷きました。
でもマリーナさまにハグされた件を見過ごすわけにはいきません。
それとこれは別問題ですから。
「マリーナさまが大変なのはよくわかります。彼女の支えになってあげるのも賛成です。ですがハグに関しては容認できません。なので――――――えいっ!」
ギュウ~~~
「―――え? 聖女様? ステラさん? す、ステラ!?」
ギュウギュウ~~~
女子寮に着くまでハグしてあげます。
マリーナさまより長く。
「な、なにやって―――ふふぉ……おふぅうう……」
拒否は認めません!
は、恥ずかしいけど! 離しませんから!
ギュウギュウギュウ~~~
「ステラさま〜」
「ララちゃん、どうしたの? 今ちょっと取り込み中なんです」
「ご主人さま、泡吹いてるです〜」
……しまった、力入れすぎちゃった。
む、難しいのですね……ハグって。
◇◇◇
◇アビロス視点◇
翌日、学園の教室にて。
「アビロス? 頭痛ですか?」
「いや……なんか昨日の馬車から寮までの記憶がぼんやりしててな」
「そ、そうですか」
教室の一番後ろの席で、ステラとたわいもない会話を交わす。
なんか昨日は、馬車に乗ったあたりから記憶がない。
柔らかいなにかに押しつぶされる夢を見たような。
「あ、アビロスはぐっすり寝て(落ちて)ましたよ。昨日は疲れていたんでしょう、オホホ」
いつもはしない不自然な笑い声を出すステラに若干違和感を覚えるが、まあ疲れてたのだろうな。
「よし、みんな揃っているな!」
そこへ、教室に入ってきたラビア先生の声が響いた。
「今日は諸君らの新たな友を紹介する!」
おお、ブルイルだ。
やったな、ようやく入学だぜ。
少しキョドりながらも、笑顔で入室するブレイル
みんなにあいさつを終えて、一番前の席に……つかない!?
何故か俺の隣に来ようとするブレイル。
いや、お前の学友はむこうだぞ。
あのネームドキャラたちが見えないのか?
俺の隣はステラなので、しぶしぶ前の席に座るブレイル。
座るなり、その小さくて綺麗な顔がこちらを向く。
「アビロス君のおかげで、僕入学できたよ~~」
「ああ、良かったな」
「これからもずっと一緒だね~~」
「……」
なぜ悪役の俺にそこまで懐くんだ? マジでわけがわからん。
そして―――
なんか、もう一人教室に入ってきてません!?
「あと、もう一人新たな友を紹介する。彼女は君らより1歳年下だが、飛び級でSクラスに編入してきた」
「えと、え、エリス・ロイ・リストリアと申します。ま、マリーナお姉さまがいつもお世話になっております。一日も早く学園に慣れるよう頑張りますので、み、みなさまよろしくお願いします」
突如として現れた金髪の美少女に、Sクラスはザワツキ始めた。
そりゃ第4王女だしな……。
そしてまたしても―――
俺の斜め前の席に着席するエリスさま。
いや、ここモブエリアなんですけど。
「ハ~ハッハ、モテモテじゃないかアビ!」
バカ笑いをあげながら、強引に俺の横に座ろうとする第三王女マリーナ。おい、やめろ。そっち側に席はない。俺が一番端っこなんだ。
一般モブ生徒として、メインキャラを微笑ましく後ろから見て過ごす。
そんな俺の目標は、入学数週間で簡単に崩れていったのであった。