第47話 マリーナ(第三王女)視点 王女が初めて頼った男
食事のあと、みんなには王城に泊まってもらう事になった。この部屋に残るはわたしとお父様、そしてアビロスのみ。
「さて、アビロスよ。単刀直入に聞くぞ、「太陽教」の目的は王族の血か?」
「はい陛下、ただし王族の血というよりは勇者の血を受け継ぐものなら、王族に関係なく欲しているようです」
「う~む、つまりは【光属性】を発現させるための血を欲しいてる。というわけじゃな」
お父様は王家への恨みからの犯行とみていたようだ。
エリスをさらった太陽教の司教とやらの死体も、瓦礫の下から出てこないとの報告を受けている。
「あいわかった。太陽教については王国の諜報機関にて調査を続行させる。手間を取らせたなアビロス」
エリスはやっと外の世界に興味を持ち始めたんだ。できれば今後も外出させてやりたい。がより警戒が必要だな。常にわたしが近くにもいられないし。
「あと、ステラが気になる事を言ってました。エリスさまから魔族のにおいがしたと」
さすが聖女だ。気づいたか―――
「アビ、その件はわたしから話そう。いいですね、お父様」
「うむ、仕方あるまい。聖女ステラは感づいたようじゃしのう」
わたしはアビの瞳をみて言葉を紡ぐ。
「エリスには、魔族が封印されているんだ」
「なんだと……それはいつからだ?」
「生まれた時からだ。実はエリスが生まれる際に王城は魔族に襲撃されたんだ。とてつもなく強力な魔族だ。母は自身の命と引き換えに魔族に深手を負わせたが、そいつはあろうことかエリスの体に逃げ込んだんだ」
「それはマリーナではなくエリスさまなんだな?」
「そうだ、わたしではない。エリスには魔族が活動できないよう封印を施したが、エリスの成長とともにやつも魔力を回復しているんだ」
「そして、封印が破られる時が近いという事か?」
「ああ、もう封印の魔力が持たない。あと数週間か、もしかしたら数日か、残された時間はわずかだ」
「封印が破られた場合はどうなる?」
「魔族が解き放たれる。まずは封印元のエリスを殺すだろう。だからわたしはエリスが殺される前に魔族を倒す必要がある」
「う~ん、ここでも改変が……封印イベントはメインイベントのはず……それがマリーナでなくエリスさまかよ……」
何かをブツブツと呟くアビ。
前から思ってたんだが、アビは時折おかしなことを言う。
だが、そんなことはどうでもいい。
今までずっと1人で鍛錬を積んできた。
少しでも強く―――
少しでも前に―――
わたしのことを戦闘狂の姫とか言う奴もいる。戦い自体は好きだが、そのために鍛えていたのではない。
わたしの目的は―――
―――エリスを救いたい。
これだけだ。
だが、日に日にエリスから漏れ出る魔力の量は凄まじかった。
今までの経験則からわかるんだ。
――――――わたし1人では勝てない。
鍛錬を積めば積むほど、それは明確になっていく。
どうすればいい? わからなくなってしまった時だった。
―――現れたんだ。
アビロスという男が。
初めてわたしより強い男を見つけた―――
初めて頼れる奴を見つけたんだ。
「アビ、悔しいがわたしの力だけではエリスを救えない。
――――――助けてくれるか?」
これは王家の問題。いや……わたしの問題だから、誰にも頼らない。
そう決めていたのに。
不思議な奴だ、この男には素直に助けを求めることができる。
「ハハッ、当然だ。なにせ【万能タレ】を貰ったんだ。お返しはきっちりするさ」
フフ、演技が下手くそなやつだ。そんなものに関係なく助けてくれるクセに。
そこがわたしのお気に入りなところなんだけどな。
まったくもって、いい男だよ。
「ありがとう――――――アビ」
「お……おう、えぇえ!?」
アビを思い切りハグしてやった。
わたしなりのお礼だ。
「アビ、今日はわたしの部屋で一緒に寝るか? 今後の打ち合わせもあるしな」
「ええ! い、い、一緒て……おま……いや……何言ってんだ」
「ハ~ハッハ、冗談に決まってるだろ。何を真に受けている。これからもよろしく頼むぞ!」
「お、お、おう……もちろん冗談ってのはわかってたぞ。じゃあ、俺は自室にも、も、もどりゅからな」
フフ、まったくウブなやつだ。わたしとしては、一緒に寝て間違いがあってもいいんだが。
そうなるとステラやエリスがうるさいだろうな。
退室しようとするアビの肩をガシっと掴むお父様。
「フォフォ、アビロス! 分かってると思うが、可愛い娘たちに間違いがあったら……ワシ切れるからね」
「は、はい! 間違いなんて絶対に起こりませんです! 自室で誰も入れずにしっかり1人で寝るであります! おやすみなさい陛下!」
カクカクした動きで退室するアビ。
ふぅ……これで希望の光がみえてきた。
「お父様……あまりアビをいじめないでやってくれ。意外にまじめなんだあいつは」
「フォフォ、随分とあやつに肩入れしておるではないか、そんなに気になるかのう」
「そんな風に見えるのか……こんなおとこ女のわたしでも」
「これでも一応お前たちの親じゃ。アビロスを見る目が他の男に比べて違うことぐらいはわかるわい。あとエリスのやつもな。まったく、とんだたらし貴族じゃのう」
そうか、わたしもわかりやすく出てたのか……
が、そんな色恋沙汰は―――この件の方が付いてからだ!
いずれにせよエリスの封印決壊の日は近い。出来る限り傍にいてやりたいのだが……わたしも学生だからな……
―――そうか! 妙案が浮かんだぞ! これはエリスも喜ぶだろう。アビの奴はびっくりするだろうが。
楽しみにしてろよ! アビ!