第44話 悪役アビロス、得意魔法を発動する
「そうなんですね、ララさんが毒の吸出しをしてたんですね」
「ごめん、アビロっち~~てっきりあんたが全員手籠めにしたのかと~~」
いや、俺はどんだけ極悪人なんだよ。まあ悪役だけど。
いきなりチューチューしまくる現場を見たらビックリするのはわかるけどな。
とにかくナリサとウルネラの誤解は解けた。
そこへ小さな救世主が、俺にニッコリと微笑んだ。
「ご主人様~~みんなの解毒完了したです~~」
「よし、良くやったララ。偉いぞ」
「ララは役に立ったですか?」
「もちろんだ、ララはみんなの命を救ったんだ。俺の自慢のメイドだよ」
「えへへ~~です!」
小さなメイドが可愛くガッツポーズをする。
いや、本当に良くやった。
ララがいなければ、ステラたちは助からなかった。
最高のメイドだよ。おまえをお付きのメイドに選んで良かった。
よし、これでエリス王女の救出イベントはクリアだな。
「さて、ここから出ないとな。ステラ、マリーナ、動けるか?」
「アビロス、なんとか」
「わたしも……大丈夫だ」
きつそうだな2人とも。解毒されたばかりだしな。
「ナリサ、ウルネラ。2人に肩をかしてやってくれ」
さて……あとは。
俺はぐったりとその場に横たわる、金髪の美少女に視線を移した。
その場で腰を落とし、彼女の瞳をしっかり見る。
「エリス王女殿下、マルマーク家のアビロスと申します」
「はい……エリスです。アビロスさま……あなたがずっと戦ってくれていた方ですね」
「ええ、とにかくここを早く離れます。まだ残党がいるかもしれません。安心してください、必ず助かります」
「はい……アビロスさま」
マズいな……なんだか王女の顔が赤くそまりはじめた。
長時間縛られて、血を抜かれて、猛毒にさらされて。
少女が耐えられる範疇を明らかに超えている。
体調を乱しまくって、発熱しているのかもしれないな。
急いだ方がよさそうだ―――
「てことなので――――――ご無礼!」
「えと? ひゃあああ!」
俺はエリス王女を抱き上げた。
いわゆるお姫様だっこというやつだ。本人お姫様だからまんまだけど。
「少しの間我慢してください。とにかく外へ出ますよ」
「ひゃい!」
なんか受け答えもおかしくなってきているぞ。
こりゃ早く手厚い看護と休養を取らせないと。
「あ、アビロス君ぅうん~~僕も動けないよぉ~~だっこ~~」
モジモジしながら刷り寄ってくるブレイル。
よし、こいつは放っておこう。
俺がエリスさまを抱きながら、一歩踏み出そうとしたその時―――
―――!?
なんだ、地面が……地震か!?
「アビ! なんだこの揺れは!」
大きな揺れと共に、地下室の地面全体に光の術式が浮き上がってくる。
「これは……魔法陣か!?」
「アビロス、これは自爆魔法陣です! ダメです、術式が複雑かつ大きすぎてすぐには解除できません!」
自爆か……太陽教のやつらが、万一に備えて仕込んでいたのだろう。証拠を全て消すために。
「ステラ! 爆発までの時間はどんぐらいだ!」
「魔法陣の完全完成まであと1分ほどです。爆発したらこの建物ごと、木っ端みじんになる規模の魔法陣です!」
マジかよ……
「アビロスさま……やっぱりわたくしは助からないんですね」
俺の腕の中で、弱々しく呟く金髪の少女。
「何言ってんです? エリス王女」
「足手まといなわたくしは置いて早く行ってください。あなた方なら全力で走れば助かるかもしれません」
「エリス王女殿下、なにか勘違いしてますね。俺はさっき言ったよな」
「は、はい? アビロスさま?」
「必ず助けるって言った以上は絶対に助ける――――――だから大人しく抱かれてろ!」
「……はい」
しゃあねぇなぁ~~
―――俺の得意魔法を出すしかないか。
「マリーナ、疲れているところ悪いが、天井に大きな穴を開けてくれ!」
「任せろ、アビ。やっと役に立てる!」
マリーナが炎の突きで地下室天井に大穴を開けた。
「わあ! アビロっち~~空が見えるよ~~」
「よし、地上への入り口が開けたな。流石だマリーナ!」
「ああ、このぐらいお安い御用だアビ」
「でもアビロス君、あんなに高くちゃみんな登れないよ。それに時間も……」
「ナリサ、登らなくていいんだ」
「え? どういうことアビロス君?」
「俺の得意魔法を使うってことだよ―――」
「あ、アビロス……まさか! ウソでしょ!」
ステラがとっさに自身のスカートを抑えた。
流石だな―――だが注意喚起している暇はねぇ―――
「残りの魔力全部絞り出す! うぉおおおおお――――――!
漆黒の闇よ、その禍々しき黒で奪い取れ!
――――――重力減魔法!!」
「みなさん! 各自スカートを抑えてください!!」
「「「「「「「え? ―――キャアアアアア!!」」」」」」
美少女たち(1名男含む)の叫び声が地下室にこだました。