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第42話 マリーナ視点 アビロスとステラの信頼関係

「なんだあのゴーレムは! アビの攻撃ですらはじくだとっ!」


 あのゴーレムを動かすために、わたしの妹の血を抜き取って。こんな拷問椅子のようなものに縛り付けて……クソっ、そんな実験道具のような扱いを受けてエリスは苦しんでいるのか。


 くっ……わたしの突きで突破口を開けることが出来たら……だが今この場を離れるわけには……


 背負うスピアに伸びる手を止める声。


「マリーナさま、魔力が乱れています」


 なんて冷静な顔をしているんだ、ステラ。


「今は妹君のエリスさまを救うことに集中しましょう」


「ああ……すまないステラ」


 アビはまったく諦めた気配はない。何度も何度もゴレームに攻撃を仕掛けている。

 それに……目の前の聖女ステラ。

 エリスの拘束を解くために、こんな複雑な魔法陣を展開しているにもかかわらず、わたしにまで気を回している。


 2人ともどんな修羅場を超えてきたんだ。


 わたしは魔法陣を安定させるために魔力を流しているだけ。


 そんな情けなさと無力さが合わさったような思いが湧き上がってくる。


 わたしも随分と鍛えてきたつもりだ。

 だが、それも全て目の前のエリスの為。そのエリスが苦しんでいる姿を見ただけで心が振り子のように揺れてしまう。


「―――焦ってしまったようだな。わたしとしたことが面目ない」

「マリーナさま、それは当然の反応ですよ。大事な人が傷つけば誰だって動揺します」

「ふ、そうだな。ステラが言うと説得力があるよ」

「アビロスは頼りになります。向こうは彼に任せておきましょう」


 まったく、ステラの言う通りだ。フラフラしているのはわたしだ。にしてもステラのアビへの信頼はとても深いな。先ほどからアビの方を一切振り向かない。

 そこまで命を預けられる存在なんだな、アビのやつ。


 ちょっとうらやましいじゃないか。


「お……お姉さま……あんな恐ろしい怪物に……誰が……」

「ああ、おまえを守ってくれる奴だよ。安心しろエリス」

「ええ、エリスさまは今までよく頑張りました。あとは私たちに任せてください。絶対に助けますから」


 絶対に助けるか……


 不思議とステラの言葉には力がある。相手を安心させるほどに。

 彼女は終始自分の役割に集中している。ブレない心か―――


 2人には色々学ばせてもらう事が多い。


「マリーナさま!  拘束魔法を解除します! 魔力全開で魔法陣を安定させてください!」

「わかった、任せてくれ!」


 わたしは慎重に魔力量を上げていく。

 いつもの情熱に任せるような出力ではない。


 ステラの掲げる聖杖から純白の光が溢れ出してエリスを包み込んだ。


 次の瞬間―――


 エリスを拘束していた鎖が、バラバラに砕け散った。


「―――エリス! 大丈夫か!」


 小柄な妹の身体をギュッと抱きしめると、エリスからわずかに笑みがこぼれた。

 ああ―――無事で本当に良かった。


「ふぅ……なんとか解除できましたね」


 肩で息をするステラ。綺麗な顔から汗の雫がポトポトと落ちる。良く頑張ってくれた。

 そういうわたしも魔力を放出しすぎてヘトヘトだな。


「まさか……我らの拘束魔法を解除するとは……」 


 ―――!?


 いつのまにかわたしたちのそばに、司教とか言う男が立っている。

 クソっ……接近に気付けなかった。


「ブレイルとかいう男……たしか光属性の特殊攻撃を使用した人間……ということは最も勇者の血を色濃く引いているということかぁ」


 司教がブレイルの方を見て、ニヤリと口角をあげた。


「フハ! ならばきさまら王家の娘はもはや不要じゃわい。そこの聖女もなあぁああ!

 ――――――トラップ始動! 猛毒フィールド発動ぉおおお!」


 司教の言葉と共にわたしたち3人を猛毒のフィールドが取り囲む。


「ぐっ……多少の毒程度ならばなんとかなるが―――」


 背のスピアを取ろうとするも、力が入らない。多少どころではないなこの毒。


「……まさかこんなトラップが組み込まれているなんて……体が……解毒魔法を……」


 ステラが解毒魔法の詠唱を試みるも、口が痙攣して魔法は発動しない。


「フハハ~~解毒魔法など無駄じゃわい、このトラップが発動した以上きさまらは確実に死ぬんじゃ。もっとも詠唱もままならんようじゃがな」



 苦しみ悶えるエリスを抱きかかえながら、わたし自身の感覚も無くなっていく。

 ―――クソ、何のために今まで自分を磨いてきたんだ。ここで対応できなければ無駄じゃないか。



 ―――!?


 少しだけ体が楽に―――ステラか!


 ステラが手を握ってくれている。私とエリスの手を。僅かながらも解毒魔法を絞り出しているのか。それにステラの目……まったく諦めていないじゃないか。



 そうか……そこまで信頼できる奴なんだな。あいつは。



「おい……クソ司教……なにをやっている?」


 あいつの声……


 アビの声か……


「フハ、そこのオンナどもはもう手遅れじゃ。もはや使い物にもならんわい。廃棄じゃ」


「ああ? 使い物にならない?」


 感じる……アビの中でなにかが変化していく。


「フハ、廃棄物のゴミ掃除をしてやってるんじゃ感謝せい」


「ああ? ゴミ掃除だと?」


 これは……魔力か? 今まで感じたことのない種類の魔力だ。

 アビの中でどんどん爆発的に膨れがっていく。



「クソが~~俺のステラになにしてくれてんだぁあああ!

 ―――うぉおおおおお、俺の深淵よぉおおお!力をかしやがれぇえええええ!!!」



 アビの体内から爆発的に魔力が膨れ上がった。


 これがアビの奥の手か!? とんでもない魔力だ。



 なるほど――――――ステラが信頼するわけだ。


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