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第40話 悪役アビロス、なぜかブレイル(ゲーム主人公)を覚醒させる

 ブレイルが覚醒した。 

 俺の口づけで……


 瀕死の状態から完全回復するブレイル。


 ちょっと待て。


 ―――なんだコレ?


 原作では、ブレイルは「聖女の口づけ」で覚醒する。

 間違っても俺の口づけではない。当り前だ。そんな展開を期待するプレイヤーなどいない。


 ―――俺の目の前でなにが起きている?


「あ、アビロス君! 僕、なんだか力が湧いてくるよ!」


 両手をブンブン振りまわして、元気ですよアピールする主人公。


 ああ、そりゃそうだ。

 覚醒したんだからな。


 俺としては、不本意だがしょうがない。

 過程はどうであれ、ブレイルは覚醒した。


 1人司教相手に頑張っていたララをいったんさがらせる。


「ブレイル! 今のおまえは無敵だ! 司教をぶっ倒せ!」

「うん! アブロス君! なんか、いけそうな気がするよ」


 いずれは俺を破滅に導く主人公だが―――

 今は俺の味方だ!



 見せてやれブレイル! 主人公の力を!



「たたた―――」


 ―――はい?


 ブレイルは微妙な掛け声とともに、司教に向かって駆け出した。

 いや、おまえ遅くない? あと内またやめろ!


「とおっ!」


 ポコっ!


「とおっ!」


 ポコっ!


「おい? ブレイルなにやっている?」

「攻撃だよ! アビロス君! とおっ!」


 おいおいおい!


 なんだその「とおっ!」って。

 なんだその「ポコっ」って。

 主人公が出す音じゃないだろ……。


 あまりの間抜けな感じに、司教も攻撃するかどうか躊躇しているじゃないか。


「ブレイル、おまえ今までどんな鍛錬してたんだ?」

「うん、そうだね色々やったよ。クワを上下させたり、種を撒いたり、刈り取ったりしていたよ」


 ブレイル、それは労働だ……畑仕事っていうんだ。



 マジかよ……



 やはりラビア先生の鍛錬を受けなかった事が大きく影響しているのか?

 いや、こいつはゲーム主人公だ。

 ちょっとやそっとの改変ごときで、主人公パワーを失うわけがない。


 力の使い方がわかっていないだけだ。


「―――ブレイル!光の終撃(ラストフラッシュ)だ!」

「ええ? アビロス君、それどうやるの?」

「自分の拳に今の湧き出ててくる魔力を集中させろ!」


「う、うん! 分かった! 僕やってみるよ!」


 ブレイルが、全身から溢れだす濃厚かつ強力な光の魔力をその拳に集中しはじめる。


「そうだ! ブレイル―――おまえならできる!」


「うぅううう〜んん! できた! アビロス君〜〜僕できたよ!」


 おお! やったな、さすが主人公!

 ……って!



 ―――全身輝いてるじゃねぇええか!



 光の終撃は覚醒した魔力を拳に一点集中する技なのに、全身から光の魔力が吹き出してやがる。

 ぱぁ~っと神々しい光があたり一面に広がって……まるで神さまか仏さまみたいな。


 クっ……これじゃあ燃費が悪すぎる……


 どうする? このままだと覚醒したとはいえ、すぐにブレイルの魔力は尽きてしまう。

 しかも今のブレイルの戦闘経験値では、司教に有効なラッシュを叩き込むのも無理があるだろう。


 ええぃ! 四の五の言ってられねぇええ―――!


 許せ! 覚醒したおまえなら耐えられる!


「ブレイル! 歯ぁ食いしばれぇええ!」

「えっ? なに? アビロス君!? わぁ~~~!」


 俺はブレイルの両足を掴んでそのまま司教に叩き付ける。


「フグハッ! なんだ―――!?」


 高濃度の光の打撃が、司教に大きなダメージを与えた。


「フハっ、わけのわからん攻撃を……だが無駄だ! 完全修復魔法(パーフェクトリペア)

 わしの前にはいかなる攻撃も無効――――――なに!?」


「ハハッ、そいつは違うな司教!」

「ばかなっ! 再生されないだと!? ま、まさか、特殊攻撃か!」



「そうだ、ブレイルの特殊攻撃―――【絶対攻撃】!」



 そう、これこそがゲーム主人公最大の武器であり、ブレイルしか使えない技。光の終撃は【絶対攻撃】である技のひとつ。もう全身輝いているから、別な技になっているが。

 そして【絶対攻撃】で負ったダメージは、必ずダメージとして残る。回復魔法でも司教の特殊再生魔法でもその効果を無効化するというとんでもない技だ。


 そして、今のブレイルは【絶対攻撃】の固まりだ。なにせ全身から特殊攻撃の光魔力を出しまくっているのだから。


 さぁ~~~さっさとケリをつけるぞ!



「―――主人公無敵剣(ブレイルチートソード)

 ――――――うおらぁあああああ!!」



 俺の放つブレイル斬撃が、司教に次々とダメージを与えていく。


「ブレイル、大丈夫か?」


 いや、こんなことを聞くこと事体がいまさら感満載だが。

 これで完全にブレイルの俺に対するヘイトは爆上がり確定だ。すさまじい恨みを買うだろうな。


 俺にブンブン振り回されているブレイルの視線がこちらに向いた。


「うん! いいよ! すごくいい!」



 ―――はい? なにが?



「アビロス君にブンブンされている僕。すごくいいよ!」


 だから何を言っている?


 大丈夫かこいつ? 俺はお前を武器として使っているんだぞ。これでもかっていう程、振り回しているんだぞ。キレてもおかしくないんだぞ。


「ああ、いいよ! 凄く良くなってきているよ! アビロス君! もっと! もっと!」


「そ、そうか……」ゾク……


 もう何も言わん! 


「―――うぉおおおおおお! 司教~~これでとどめだ!!」

「フグハっ……なんなんだ貴様ら……」


 再生が出来ずに、大ダメージを負った司教がその場に崩れ落ちていく。


「へっ、悪役と主人公様の夢のタッグだよ……」


 俺はすぐさまブレイルをその場に座らせる。

 魔力を放出しきったのだろう、すでにぐったりとして若干体が痙攣している。


 よく頑張った。そう声を掛けようとした俺の口が―――


『ゲヘヘヘ~~ブレイル~~おまえいいなぁ! 調教しがいがあるじゃねぇか! すっごくいいぜぇえ!』


 ブレイルすまん。元悪役のクソセリフが久々にでた。すぐに労いのことばをか……


「ああっ!! さいっこうだよぉおおおお! アビロスくぅんんん!! もっとぉおおお!!」


「……はい?」ゾクゾク……


『ゲヘヘヘ~~ブレイル~~このままたっぷりと仕込んでやるぜぇええ!』

「やった~~アビロスく~~~ん、もうビクビクがとまらないよぉおお! もっとぉおおお!!」



 俺の意思ではない悪役クソセリフになぜか呼応する主人公ブレイル。


 おまえたち……



 頼むから俺を変な世界に連れて行かないでくれ! ゾクゾクが止まらん!!


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