第39話 悪役アビロスの口づけ
「エリス! エリス! しっかりしろ!」
「お……お姉さ……ま」
「意識はありますね、エリスさま。こ、この拘束……」
「ステラ、この拘束はなんだ? わたしの力では引きちぎれないぞ!」
「マリーナさま。エリスさまは強力な魔力とこの鎖によって、複雑な拘束魔法に縛られているようです。しかもこのにおい……」
「フハ、無駄だ。その拘束魔法は我らが独自に進化させた魔法だ。学生ごときが開錠できる代物ではないわい! 諦めろ!」
「黙りなさい! 開錠できないものなどこの世にありません!」
ハハッ、さすがステラだ。
そうだよな。諦めなんて、ステラにはもっとも無縁の言葉だぜ。
「マリーナさま! この強力な魔力に対抗するにはあなたの魔力も必要です! 手伝ってください!」
「ああ! もちろんだステラ!」
ステラの周辺に純白の光がともりはじめる。
よし、向こうはステラたちに任せておけばいい。
「ムッ……あれは聖属性魔力の光……ステラ……そうか、あの小娘は聖女か」
「そうだ、あの聖女ははんぱねぇぞ」
「フハ、聖女とはいえまだまだ小娘。我らの拘束魔法には手も足もでんわい」
「それは―――
―――どうかなぁあああ!」
俺は司教との距離を一気に詰めると、重力を付与した斬撃を叩き込む。
先手必勝だ。先ほどから司教が、強力な魔力を練り込んでいるのはわかっている。
なら、強力な魔法を使用する前に勝負を決める。
「―――ブハっ!」
俺の斬撃は司教の右腕を根元から斬り落とした。
手応えあり!
かなりのダメージのはずだ。
「太陽神よぉおお! そのまばゆい光で我を癒したまえぇええ!
―――完全修復魔法!」
眩い光と共に司教の腕が、根元からみるみるうちに再生していく。
―――まじかよ!
欠損部分を再生できる回復魔法だと……そんなのヒールの最上級魔法でも無理だ。聖属性を持つステラですらゲームの終盤になってようやく習得できるレベルの魔法だ。
聖属性以外でこんな芸当のできる属性なんて、ひとつしかない―――
「光属性の魔法か―――」
光属性はゲーム原作においてブレイルのみが持つ属性のはず。
攻守ともに強力な魔法が使用できる、ゲーム主人公のチート属性である。
しかし、司教の使用した魔法を俺は知らない。少なくともゲームには登場しない。
「フハ! いかにも! 我らが神の属性じゃわい! さあ~~~今度はこちらの番だ!
太陽神よぉおお! そのまばゆい拳で敵を砕けぇええ!―――陽の剛拳!」
司教から光の打撃が連続して打ち込まれてくる。
こいつ! 近接戦闘もかなりのものだぞ!
司教と一進一退の攻防が続くなか、横からするどい一閃が飛んできた。
「ご主人様を手伝うです!」
ララが鞭による援護射撃をベストタイミングで入れてくれた。
これを起点に、再度司教に深いダメージを与えるが……
「―――完全修復魔法!」
すぐさま、完全修復される司教。
クソ、完全に消滅させるか、特殊な攻撃をしないとキリがないぞ。
んん? 特殊な攻撃?
俺はブレイルをチラッと見る。
ひとつだけあった。
「ブレイル! 光の終撃できるか!」
「ふぇええ~~なにそれアビロス君~~」
やはり無理か……この技は「聖女の口づけ」でブレイルが覚醒しないと使用できない。
ここまでストーリー改変があるなら、飛び級で習得しているかもと思ったが、そうそう甘くはないよな。
というかブレイルさっきから戦闘に参加してなくない?
棒立ちじゃねぇか、なにを出し惜しみしているんだ?
「フハ、もう無駄な事はやめて諦めるんじゃな。さっさと貴様らを片付けて王女二人の採血をせんとなぁ~~」
「そんなに王女の血が欲しいのか」
「ああ、欲しいわい。王族は勇者の血族だからなぁああ!」
司教は強烈な打撃を放ちつつ、ほくそ笑んだ。
勇者とははるか昔に魔王を討伐したとされる人物だ。この王国もその勇者が建国した。ゲーム原作の設定ではそういうことになっている。
つまり今の王族は勇者の末裔ともいえる。
実はブレイルも勇者の血を引いている。はるか昔に枝分かれした勇者の子孫であり、マリーナの遠い遠い親戚ともいえいよう。
そして隔世遺伝で、勇者の光属性が最も強く出るのがブレイルなのだ。
しかしゲーム原作に「勇者の血」なるアイテムは存在しないし、そのようなイベントもない。
「おい、なんの為に血が必要なんだ。おまえの光属性も関係しているのか?」
「フハ、なぜじゃろうなぁ。我らの研究には必須のアイテムじゃからなぁ。
さあ~~~おしゃべりは終わりだぁあ~~そろそろお前らには死んでもらうぞい!」
司教が両手を天井に掲げて魔力を集中しはじめた。
今までで一番強い魔力を感じる。
勝負を決める気だ。
「太陽神よぉおお! そのまばゆい波動で全てを吹き飛ばせ!
――――――極烈太陽衝撃波!」
俺たちに迫りくる高濃度の魔力を含んだ光の衝撃波。
これはヤバい!
俺は咄嗟にララとブレイルの前に出て、両足に思いっきり重力をかける。
「ララ! ブレイル! 頭を手で覆ってしゃがめぇええ!
―――きやがれ! 不屈の肉壁!!」
―――痛ってぇええええ!
強烈な衝撃波が通過する。
地下室の地面が衝撃波によってえぐられていく。
「ララ、大丈夫か!」
「ハイです! ご主人様!」
さすがだ、ララは大丈夫そうだな。そして、もう一人―――
「ブレイル―――!?」
ブレイルは吹っ飛ばされて壁面に強く体を打ち付けたのか、その場にうずくまっていた。
「あ、アビロス君。ごめん……ぼくやっぱり役立たずだったよ」
「ブレイル、しゃべるな」
腹部に出血、それに吐血。クソッ……急がないと手遅れになる。
ステラに回復魔法をかけてもらうしかない。
「アビロスくん……さいごに君の顔をみせてよ……」
「バカなことを言うな。ステラのところに行くぞ」
なにがさいごだ。主人公が簡単に諦めてんじゃねぇよ。
ララが司教とやりあって、踏ん張ってくれている。
その間にステラの元へ……
両手で俺の顔にスッと手をそえるブレイル。
おい、ステラのところへ行く言ってるだろ……んんちゅ???
―――?☆$&#!!
なんだ!! なんか目の前が急に真っ暗になったぞ!?
この唇の柔らかい感触……
おいおいおいおいおいおいおいおいおい~~~~!!
俺は速攻でブレイルの顔を引きはがす。
「お、おまえなにやってんだ……!?」
「プはぁ~ありがとうアビロス君……さいごに最高の……思い出が……」
そしてブレイルの身体がぱぁ~と輝きだす。
「あ、あれ? アビロス君! ぼくなんか痛くなくなったよ! それになんだか力が湧いてくるよ~~すごい!」
おい、主人公。冗談はよせ……
俺の口づけで覚醒してんじゃねぇえええええ!!