第37話 よく考えたらこれ、主人公パーティーなのでは?
第3王女マリーナの妹である第4王女エリスが誘拐された。
これはゲーム原作のメインイベントだ。
あとは、どこまでストーリー改変が行われているか。
こればっかりは予測もつかない。
「さて、マリーナ、まずは第4王女であるエリス王女殿下の容姿を教えてくれ」
ぶっちゃけ第4王女のエリスはメインキャラではない。このイベント以外ではほとんど登場すらしないキャラだ。
ゲーム画面でもほとんど姿が出てこないから、俺もよく覚えていない。
「たしかに、王宮の祝賀会などでもお見かけしたことがないですね」
「そういえば、第4王女様って~~ウルも知らないな~」
「わたしも、お名前を初めて聞きました」
ステラ、ウルネラ、ナリサも知らないようだ。まあ、ゲーム設定上露出しないキャラだからな。
とりあえずは、対象者の容姿が多少なりともわからんと探しようがない。
「ああ、いいぞ! エリスは可愛くって、目に入れても痛くなくて、もうずきゅ~ンってなる!」
はい? ずきゅ~ン??
なに言ってるんだ? 妹を溺愛していることだけは伝わってきたが。
「マリーナ、もうちょっと具体的に教えてくれ。髪の毛の色とか、背丈とか」
「ああ、髪の毛は天使のように愛くるしくて~~姿は妖精のようにキュンキュンしてて、もう全部愛おしいぞ!
―――いや、だからなんもわからん!
「はい、マリーナ王女殿下に変わってお伝えします。エリス王女殿下は、金髪、黒目で、小柄な女性です。年齢は14歳、真っ赤なリボンの髪留めをつけております」
おお、端的に特徴を捉えてわかりやすい。
侍女さんが教えてくれた。
「申し訳ございません。マリーナ様はエリス様のことになると少し興奮してしまうものでして」
「ああ、気にするな。それだけ妹が大事なんだろ」
さて、対象者の容姿が判明した。
次にさらわれてどこに監禁されているか。つまりエリス様の居場所だが。
「なにかヒントがあればいいのですが」
「へぇ~~エリスさまは馬車で移動中だったんだ~~」
「朝方出かけたきり馬車ごと行方不明なんですね」
「やはり手分けして探すしかないか」
場所は原作を知っている俺でもわからない。
なぜなら、何か所か候補地があり決まっていないのだ。つまり毎回ランダムだ。
ひとつづつ潰していると、とてもじゃないが時間が足りない。
「あ、そういえば。今日の朝、王都の外れにある建物に豪華な馬車が止まってたよ。でもすぐにどこかにいっちゃったけど」
―――なに!?
「ブレイル! そこどこだ!」
「え、王都外れにある陽の教会近くだよ」
陽の教会近くの施設……原作にもある監禁場所のひとつだ。
「そういえば、豪華な紋章がついてたなぁ~~ほら、それに似たやつだよ」
ブレイルの指さした方向には、マリーナのスピアに刻印されている紋章。
つまり……王家の紋章だ。
「ナイス情報だブレイル! しかし、よくそんなところにいたな?」
「うん、僕は毎朝新聞配達しているからね。陽の教会に届ける時に見かけたんだよ。毎朝の風景とは違うな~て思ったから印象に残っていたんだよね」
新聞配達……くぅうう~~主人公がまったく主人公ムーブしていない。これじゃ苦学生じゃねぇか。いや今のブレイルは学生でもなかった。
が、とにかくブレイルの情報で確信を得ることができたぞ。
「みんな。エリス王女は、そこに監禁されている可能性が高い」
「そうだな、アビ! すぐにでも行くぞ!」
マリーナがスピアを背負って、装備の点検をする。
他のみんなも各々準備をはじめた。
さて……
「ブレイル――――――おまえもこい!」
「え?なんで?」
なんでって、おまえ主人公だろうが!
ここで活躍して学園に入るんだ。なんとしても。
王女救出イベントとかならワンチャンありだぞ。なにせ王族だからな。
「なんでもクソもあるか! おまえブレイルだろうが! 困っている人を助けるのが使命だろ!」
「ちょっと待って、僕仕事中だから。行くなら代わりの門番さんに連絡して、あと午後有給申請しないと」
くぅううう、主人公が午後有給とか言うんじゃない!
ゲームイメージがぶっ壊れるだろうが!
クソ……代わりかよ。
俺があたりを見回すと、食堂の受け取り口で厨房の女の子に絡んでいる貴族に目が止まる。
おお! あいつは! ナリサ達を馬鹿にした……
「―――ゲシタ! ちょっとこい!」
俺の声にイラついたのか。「ああ?」と息巻いてズンズンとこちらに向かってくるゲシタ。
「ナリサ、頼む!」
「う、うん。わかったアビロス君。
―――偽りの芳香!」
「ああ?なんだよアビロス! 調子にのってんじゃ……ポワ~~ン」
「よし、ゲシタ! おまえは門番だ!」
「お、おれはもんばん……ポワ~~ン」
「午後の仕事に戻れ! 門番!」
「も、もどる。おれのしごとはもんばん……ポワ~~ン」
「よし、ブレイルこれで門番は大丈夫だ! さあ、みんな行くぞ!」
聖杖を持った聖女ステラ。
スピアを背負った第三王女のマリーナ。
ナリサとウルネラ。
そして、黒髪のブレイル。
んん? なんかこれ本来のゲームパーティーぽくない?
聖女に王女に主人公……いや、悪役の俺がなんでいるの?