第34話 あれ? もしかして俺は鍛えすぎてしまったのか?
「ハァハァ……まさかクスリまで使ってくるとはね……君は想像以上の卑怯者のようだ。ハァハァ」
「おい、クレス? おまえさっきから何を言っている?」
「ふん、認めないか……ハァハァ。なら―――」
いや、こいつまったく人の言う事聞かないな。
そんなクレスが意を決したのか、こちらに突進してきた。
おお、ようやく全開だな!
さあ、Sクラスのゲームキャラ相手に俺の力はどれほどのものなのか。
―――やってやる!
俺は左に跳んで、クレスの突進を回避、さらに方向転換して脇に斬り込む―――
この反応速度ならば。
―――って、クレスがいない!
どこ行った?
あ、いた。
俺の方に突進している最中だった……
遅すぎる……ある程度敵の動きを予想して動いたつもりだが、見事に俺の予想は外された。
これはどういうことだ? クレスはサブキャラとはいえ実力者のはず。ゲームバトルでもそこそこ活躍する。
「ば、馬鹿な……僕の突進から逃れるなんて……」
バカな……は俺のセリフだ。
ラビア先生の修行で本来の悪役アビロスよりは強くなったが、Sクラスのゲームキャラ相手に楽勝できるほど甘くはない。
「クレス、おまえちゃんと訓練したか?」
「当たり前だろ! 僕は毎朝走って必死に努力したんだ。こんなクスリを使う奴なんかに負けられない!」
なに? 毎朝だと……
クレスが、再びがむしゃらに突っ込んできた。
「この華麗なるフットワークが見切れるか! アビロ―――ぶぎゃぁあああああ!!」
俺はクレスを一瞬で捕捉して、そのどてっ腹にストレートパンチをお見舞いする。
おい、毎朝ってなんだ! 俺は毎日夜まで走っていたぞ!
そのあと訓練本番が始まるからな。
クレスはフラフラとよろめきつつも、なんとか踏ん張って体制を立て直す。
「グハァ!! こ……こうなったら僕の得意魔法で決めてやる! ハァハァ」
クレスが魔法詠唱を開始する。炎属性か―――
「火の精霊よ、その熱き弾丸で敵を燃やせ!」
―――火炎魔法×3!」
おお! 連発か! しかも3連!
でも……
―――なんかショボイ!
そして迫力に欠ける!
ちゃんと魔力を込めて発動したのか?
魔法は術者の魔力が大きく影響する。魔力をしっかり練あげて、なにを成すのかイメージして放つことが重要だ。
この訓練を何度も何度も繰り返して、強力な魔法が使用できようになるのだ。
あと、詠唱に時間かかりすぎだぞ。
こんなん魔法で応戦するまでもねぇ―――
「おらぁああああ――――――!」
俺は地を蹴り迫りくる火炎をすべて拳で叩きつぶした。
―――やはり軽い! 1つ1つの火炎の質がたいしたことない。
「う、嘘だぁああ! ぼ、僕は魔法訓練を毎日魔力が尽きるまでやってたんだ! クソアビロスなんかに負けるはずがないんだ!」
魔力が尽きるまで……?
こいつ何を言っている?
違うぞ。真の訓練は魔力が尽きてから始まるんだ。
何度も何度も、体中の魔力を絞り出して、撃ち続ける。魔力がつきても「まだあるだろうが、絞り出せ!」というラビア先生の怒号が脳裏に蘇る。
俺はこれを魔力筋トレと呼んでいる。
「もうないです!」って言葉を何回発しても、さらに絞り出させるラビア先生。
そうやって、魔力と魔法の質を高めるんだ。
俺はその場でひと呼吸して唱える―――
「漆黒の闇よ、その黒き炎で焼き尽くせ!
―――黒炎球魔法!」
俺のかざした手のひらから、漆黒の黒い炎弾が飛び出す。
そして黒い軌跡を描いて―――クレスに直撃。
爆炎を上げた時には、俺はすでに第2弾を放っている。さらに第3弾、第4弾、第5弾――――――
まだまだまだ――――――
次々に着弾する炎弾が爆発と黒煙を重ねていく。
このままさらにたたみかけようとすると、誰かに腕を掴まれた。
「アビロス! もう終わっている」
俺の腕を掴んだのはラビア先生だった。
訓練フィールドにクレスの姿はなかった。
戦闘不能判定で、フィールド外に強制排除されたということか。
あと、ナリサのアロマ攻撃で自己紹介をはじめた2人も、ついでに吹っ飛んでいたらしい。
なんだこれ?
俺は勝ったのか?
おいおいおい、仮にもネームドキャラだろ?
難関のロブアカSクラスの生徒だろ?
軽く動いて、初級魔法を数発放っただけだぞ……
いくらなんでも弱すぎる。
もしや、ゲーム原作とは違い、クレスの奴がさぼりすぎたのか?
いや、ちょっと待てよ……
毎朝ランニングって普通じゃないのか? むしろ夜までやるものなのか?
魔力が尽きるまで魔法訓練って普通じゃないのか? 魔力が尽きてからも魔法訓練なんかやるのか?
なんかラビア先生のしごきが日常化してしまい、俺の感覚がおかしくなっている!?
とすれば、クレス達の実力は現時点で相応のものなのではないか。
もしかして―――俺
――――――鍛えすぎちゃった?