第30話 悪役アビロス、学園初日に衝撃をうける
「いよいよだな。ステラ」
「ええ、アビロス。共に頑張りましょうね」
俺とステラは学園への道を2人で歩いていた。
ついに入学の日が来たのである。
学園、ロイヤルブレイブアカデミー 通称ロブアカである。
このロブアカへの通学路も毎日通うことになろう。
ちなみに俺はすでに男子寮に入っている。
ステラは女子寮だ。
寮を出たらステラがいた。
「た、た、た、たまたま出てくる時間帯がかぶりましたねっ!」とか言ってた。
まあ、女子寮は男子寮の近くだ。全然あり得る話だろう。玄関まで見送ってくれたララが、なぜかニヤニヤしていたが。
「フフ、アビロスの制服。カッコいいですよ」
「おお、ありがとうな。ステラもすっごく似合っているぞ」
男子の制服は基本ブレザーに黒パンツだ。
なんだか高校時代を思い出す。というか今のアビロスは高校生の年齢だけどな。
女子はブレザーにスカートだ。けっこう短めのスカート。
これはゲーム世界のデザインだからしょうがない。
あと、ステラはブレザー、スカートともになんと純白である。これは他の生徒とは違う。
教会が聖女としての純白さは、学園であっても失ってはいけない。とかいうよくわからない設定だ。
もうその超絶美少女が清楚な感じと相反して、短い純白のスカートからチラチラでてくる太ももが―――
ま、まあメインヒロインだからな。他のモブ生徒と同じな訳がない。
それはわかっているのだが―――
いや、これヤバいな……可愛すぎるぞ。
もう、周囲の目がえらいことになっている。
通学生徒たちの注目の的だ。
学園についてないのに、もう目立っているじゃないか。しかしステラには絡むと決めたんだから、やむを得ないか。
「あ、アビロス。学園に入る前にちょっと確認しておきたいことがあります」
「ん? どうしたステラ?」
ステラが改まって、小声で話しかけてきた。
「そ、その【聖女の口づけ】ですけど……」
「お、おう……」
「あまり学園内ではその話題は出さないでください。教会からも言われていますし……」
なんだかモジモジし始めたぞ、聖女さま。
「その私も……あの……ちょっと」
なるほど、【聖女の口づけ】はこの世界でも広く知られているイベントだ。
与えられた者は、なにかしらの祝福を受けるとされている。
原作ではゲーム主人公が、【聖女の口づけ】によりその力を解放して、大幅レベルアップを果たす。
教会にとってはかなり神聖な行為なのだろう。
だから、いきなり俺という微妙な貴族モブキャラが【聖女の口づけ】受けてました~~てへ。とかはあまり喧伝してほしくないということか。
正直なところ、【聖女の口づけ】の対象者が1人だけかどうかはわからないしな。
……いや。
できれば俺一人にして欲しいけど。
それはステラの意思によるだろうから強制はできない。
「ああ、わかった。もとより言う気もないぞ。チューの件は安心しろ」
「ちょ! アビロス! チューとか言い方!」
え? チューじゃなきゃなんだ? キス? 接吻? 口吸い?
「と、ところでアビロスはその、他の方とも……それ……したことがあるんでしょうか?」
「え? 俺が?………え~~と、無いな」
以前ララが俺の口から毒を吸い出したことがあったが、あれはノーカンだろう。
「ちょっと! 随分と間がありましたけど! なにか隠しているんじゃないでしょうね! 私は初めてだったんですからねっ!」
いや、急に音量でかいよ。聖女さま。
内緒なんでしょ。
その事態にハッとして、うぅ……と俯いてしまうステラ。顔が赤い。
「ハハッ、安心しろステラ。俺たちは胸をはって学園に行けばいいんだ。変に考えすぎるなよ。もっと楽に楽しもうぜ」
「ええ、そうですね。アビロス。なんだかあなたの言葉だと安心します」
顔を上げたステラが俺の方に視線を向けた。
「すいません。なんだか緊張していたみたいです。もう大丈夫!」
普段の笑顔に戻る聖女様。
そこへ周りのガヤが聞こえてくる。
「あ、あれ噂のアビロス君じゃない?」
「ああ~~パンツ大好き貴族だ~~学園中のパンツ狙っているらしいわよ」
「そ、そうなんだ……でもちょっとカッコいい……試験会場でみんなを助けたんだよね、あたしアビロス君なら狙われてもいいかも」
おい、パンツ大好き貴族ってなんだ……
貶されているのか? 褒められているのか? よくわからん。
「アビロス! あまり周りのガヤを気にしないでください!」
「あ……はい」
さっきの笑顔はどこいった、ステラ?
「どうしてもパンツが我慢できない場合は、私に相談してください! いいですね!」
「お……おう?」
いや、俺パンツの禁断症状とかないんだけどな。
もうスカートめくりキャラが定着してしまったのだろうか。まだ初日だというのに。
あと、相談ってなんだ?
にしても、ステラ。ひっきりなしに挨拶されてんな。
「聖女様、おはようございます!」
「まあ、おはようございます。あと学園ではステラとお呼びくださいね」
「は……はい! 聖女様!」
満面の笑みで去って行くモブ生徒たち。
早くもステラ人気は高まりつつある。本日何回目だろうか?このやり取り。
しかしさっきの奴はどこかでみた顔だな。とんがり頭の……
あ! 門番だよ!
思い出した! たしか入学できないモブキャラが門番して。その門番の実家に行ってイベントが起こる。みたいなプチサイドストーリーがあったぞ!
―――んん? いや待て。
あいつはたしか制服を着ていたぞ。
てことは誰が門番しているんだ? ま、まあ……他のモブがやっているんだろうな。
そうだ、そうに違いない。
そして、俺たちの前に巨大な建造物が見えてくる。
ロイヤルブレイブアカデミーだ。
「おお、デカいなぁ」
「ええ、アビロス。そこで学べるなんて。ワクワクしますね」
うわぁあ~~ゲームそのまんまだ!
ヤバイな、ちょっと興奮してきたぜ。
正門が近づいてきた。
いよいよ始まるんだなぁ。学園が。
「あ、アビロス君~~おはよう~!」
んん? 主人公ブレイルの声がきこえるが……どっから。
おい!
おいおいおいおいおい!
おはようじゃねぇ! 主人公がなんで門番してんだ!
こいつ――――――
―――試験に落ちやがったぁあああ!!