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サイボーグ召喚――時空を超えた戦士  作者: 藍染迅


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第20話 命がけの選択

 WO-9をさらった黒い影はもう1羽の怪鳥であった。勝利の直後、弛緩した一瞬を衝いてWO-9の体を嘴に咥えて飛び去った。


 我に返ったWO-2がレイガンを引き抜いたが、その時は既に銃の射程外に飛び去っていた。思わず、地を蹴って離陸しようとしたWO-2は、燃料切れであることを想い出して舌打ちする。


「ちっ! 使えねえ!」


<スバル、大丈夫か?>


 すぐさま脳波通信に切り替えて、WO-9の無事を確認した。


<大丈夫だ! 嘴に挟まれているが、嚙み切られる心配はない>

<良かった。何とか隙を作るから脱出しろ!>

<了解。さすがにこの高さから落ちると無事では済まないので、下降するのを待つよ>

<了解した。振り落とされるなよ>


 上空の怪鳥、そして咥えられたままのWO-9を見上げながら、WO-2は地上をひた走った。


 怪鳥といえどもいつまでも飛んではいられない。やがて地上に降りてくるはずだ。それまでWO-9が頑張ってくれればやり様がある。さっきと同じように、射撃の的にしてやれるのだ。


 WO-9も嘴から逃れるだけならどうにかできるはずだが、振り落とされる恐れがあるのでおとなしくしているのだ。


 怪鳥とサイボーグ、どちらが狩人でどちらが獲物なのか?


(フライドチキンにしてやるから、待ってやがれ!)


 グラスホッパーで怪鳥を追跡しながら、WO-2は心に誓った。

「空」はブラストの物だった。「飛ぶこと」にかけては負けたことが無かった。「空から」ならどんな敵とも戦えた。


(あんなブサイク野郎に「空」を支配されるなんて、許せねえんだよ!)


<くそっ! 何とかならねえのか、俺の噴射装置(ブーツ)!>


 怒りのあまりWO-2は大地を強く蹴りつけた。


<何とかならないことも無いわよ>


 プライベート回線で返事をして来たのは、アンジェリカであった。


<何だと、アンジェリカ? もう一度言ってくれ>

<何とかなると言ったのよ。ワタシの計算が正しければね>

<どういうことだ? 燃料が調達できるのか?>

<ある意味ではその通りよ>


 アンジェリカは謎めいた言い方をした。


<おい、持って回った言い方は無しだ。時間が無いんだ。答えをくれ>

<せっかちね。この世界で手に入る物を燃料にするのよ>

<ロケット燃料に代わるものだと?>

<そう。しかも半永久的に使えるっていうおまけつきよ。聞きたい?>


 ふざけたように聞こえるアンジェリカの「声」であったが、なぜかぞくぞくするような怖い響きが漂っていた。


<……何か裏があるんだな?>

<ご名答。命を落とす可能性もあるわ>

<命を懸けろって? そんなものはいつものことだぜ。何を使わせようとしているんだ?>


<「魔核」よ>

<「魔核」だと? 何だ、それは?>

<詳しい話は後で。魔物の体内にある心臓に代わる器官のことよ>

<魔物の心臓だと? それが燃料になるのか?>


 心臓を燃やしたくらいで飛べるのか? WO-2はアンジェリカの言葉を疑った。


<燃料というのとは違うわね。マイクロ原子炉に加えて第2の動力源にするのよ>

<動力だと?>

<魔核は魔法の源よ。魔核を使えばロケット噴射に匹敵する火魔法を再現できる>

<どうやって使うんだ?>


<もちろん、アナタの体内に埋め込むのよ>


 当たり前のことのようにアンジェリカは言い切った。


<魔物の心臓をこの体に埋め込むだと? どうかしてるぜ!>

<そうかしら? 元々アナタたちの体はサイバネティック器官をつなぎ合わせたもの。人体ではないわ>


 アンジェリカの言う通りであった。WOシリーズのボディはロボットと言っても良い人工物であった。ブラストの体で元の部分を残しているのはその「脳」だけと言って良かった。


<そんな物の使い方をなぜお前が知っている?>

<この世界の知識はミレイユを経由して吸収したわ。それに「サンプル」を研究させてもらったわ>

<サンプルだと?>


<あなたが倒してくれた「魔犬」よ>

<!>


<もう苦労したんだから。止めようとするお付きの者を振り切って、お姫様に解剖させたのよ>

<むちゃくちゃだな!>

<もちろんこっちで意識を乗っ取った上でだけどね。記憶には残るので大分まいっているわ、お姫様>

<悪い魔女みたいな奴だな。それで使い方がわかったのか?>


<わかったわ。魔法の発動方法もね。ただし、そのためにはあなたの脳と魔核をつなぐ必要がある>

<それが読み切れない危険ってわけだな?>

<前例が無いからね。拒否反応が起こる可能性がある。その場合は再手術で除去しなければならないけど>


<問題は「脳」への影響か……>


 WO-2は考え込んだ。ただ一つ残った自分の生体。それを侵される可能性があるのだ。


<可能な限りフィードバックが生じないように回路をつなぐけれど、制御をするためにはゼロにできない。そこに危険が存在するのよ>

<ふん。御大層なことだ。9割以上を機械仕掛けにしておいて、いまさら脳の心配をされても手遅れだぜ>

<強がりを言うのね>

<強がりで結構だ。この世界ではお前に頼るしかないからな。できる限りの逆流防止装置を付けといてくれよ。それで我慢してやるぜ>


 WO-2は「空の支配」を取り戻すために、己の尊厳をポーカーチップにする覚悟を決めた。


<それなら怪鳥を倒したところまで戻って。あいつの魔核を使わせてもらうわ>

<よう。どうも話がおかしいと思ったら、お前さん、俺たちのことをのぞき見してるのか?>

<嫌な言い方ね。こそこそのぞいたりしていないわ。堂々とアナタたちの中にいるんだから>

<何だと?>


 WO-2は怪鳥のもとへ戻るためUターンしながら、詰問した。


<お前、俺たちをハッキングしたのか?>

<見解の相違ね。「異界渡り」をするのに媒体が必要だったから、アナタたちのCPUに分乗させてもらったのよ>

<いや、ちょっと待て。そもそもICBMの上で話しかけて来たよな? 通信衛星が周りに無いっていうのによ>

<だから正直に言ったじゃない。「どこにでもいる」って>


<俺たちの頭の中じゃねえか!>


 WO-2は絶叫した。


<そうだけど。大変だったのよ、それなりに。データ圧縮と最適化を極限まで突き詰めて、アナタたちの貧弱なCPUエリアに詰め込んだんだから>

<畜生、魔物に冒される前にAIに浸食されちまってるじゃねえか、俺たちの頭がよ!>

<害になることはしていないから安心して頂戴。そろそろ怪鳥の死体にたどり着くわよ>


 怪鳥は先程とまったく同じ姿勢で、地面に横たわっていた。


<WO-9がきれいに脳を撃ち抜いてくれたから助かったわ。魔核は心臓の隣にあるの。心臓を狙われたら危なかったのよ>

<ところで、アンジェリカさんよ。魔核がここにあるとして、そいつを取り出したり、俺の体に移植するのは誰がやってくれるんだい?>

<馬鹿ね、ここにはアナタとワタシしかいないのよ? アナタとワタシに決まっているじゃない?>

<何だと? そんな馬鹿な?>


 AIと患者だけで手術をやるとは、どういうことか?


<あなたもサイボーグなんだから、もう少し考え方をロジカルにしてもらわないと。説明をよく聞いてちょうだい>


 移植の術式、WO-2の身体構造についてはアンジェリカが万全の知識を保有している。

 後はそれを実行する「手」であるが、アンジェリカには肉体がない。


 そこで導き出される方法は、WO-2の手をアンジェリカが制御して手術を実行させるというものであった。


<おいおい。オレに自分で腹を切れっていうのか?>

<自腹を切るだなんて言い方が下品ね。セルフ・リペアリングって言って頂戴。機械っぽいのが嫌なら「セルフ・サービス」でも良いわよ>

<ガス・ステーションじゃないんだぜ! やれやれだ。異世界でハラきりとはな>


 ぶつぶつ文句を言いながら、WO-2はひとっ跳びで怪鳥の背中に飛び乗った。


<とにかく魔核を取り出さないとね。ワタシが指示するからレイガンの威力を最小にセットして「背中開き」にして頂戴>

<まさかレイガンで鳥を捌くとはな。こんなことならケンタッキーに帰って焼き鳥屋でもやれば良かったぜ>

<ぶつぶつ言わないで。第一アナタはブロンクス生まれでしょ?>

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