Revealing Personal Anecdote4〈善行を積んでみようか〉
金曜日。同僚と仕事帰りに飲んで、終電間際に乗った。
もう、とっくに午前を回っている。見慣れたいつもの駅のホームに降り立つと、少しホッとする。後は徒歩で帰れるから。
本当はもっと早く帰りたかったんだけど、2次のカラオケで盛り上がっちゃて。
着いた駅前は、真夜中を跨いでいてもまださざめいていて、まだ遊び足りない人たちがウロウロしてたり、酔っぱらったグループたちが蛮声と嬌声を上げながら次の店目指してふらふらしてた。
しかし、駅から離れるごとに人はバラけて、いつの間にか一人、誰もいない住宅街を歩いてる。
アパートやマンションの所々の窓には、まだカーテン越しに部屋の明かりが灯ってる。
明日は土曜日だしな。夜ふかしさんも多いだろう。
薄暗い街頭に浮かぶ、俺の靴音だけが響く静かな夜の道。
‥‥‥ん? 今、俺の数メートル先で何かがひょこんと跳ねた。‥‥‥何? まただ。
近づいて見ると、それは大きなカエルだった。手のひら大の褐色。
ひょこん、ひょこん、ひょこん‥‥
こんな住宅街にカエルがいるわけ無い。これは逃げ出した誰かのペットだろう。
たまに大きなヘビが逃げたとかニュースになるよな。酷い時にはピットブルが逃げたとかも聞いたことがある。危険なペットを飼うなら、ちゃんと細心の注意を払って飼って欲しいものだ。
このカエルの種類はよく分からないが、こいつは外来種かも知れないし、本来の生息地以外で放たれたら環境に良くないだろう。そう、環境に良くない。毒だってあるかも知れない。子どもが見つけて触ったら大変だ。
───だから。
俺は迷わず踏み潰す。
グチャ‥‥‥
ちっ、革靴が汚れちゃったじゃないか。
俺はこの先にある公園の水道で流して行くことにした。このまま家に帰るのは、気持ち悪いし。
水道で靴裏に付いたカエルの生臭い体液を流し、履き直す。
手を洗い水道を止めると、ふと、かすかに俺の耳に入って来たこれって?
‥‥子猫の声? 向こうの植え込みの茂み辺りから。
気になって、声を辿って、園内の遊歩道の脇の、植え込みの連なっている更に闇深い方へ向かう。スマホのライトで照らしたら。
あ、こんなとこに───
ダンボールの中に、子猫が4匹。か細い声で泣いてる。目ヤニをためて、排泄物でうす汚れた子猫たち。捨て猫だ。
世の中にはマジで無責任な飼い主がいるもんだ。この子たち、可哀想に‥‥‥
母猫の体温に抱かれて、ミルクを貰っている頃だろうに、こんな寂しいところで震えていなければならないその理由を、俺は知ってる。
───そう、お前らは、本来はこの世に生まれて来るべきじゃなかった命だからだ。
だから、この世から、今すぐ消えるのが正解。
俺は神の御心のままに。
こんなチビにでも、噛まれたら感染症になる危険性があるからね。触らない方がいい。ダンボールの蓋を閉めて、上から思い切りガンガン踏み潰す。
フニャっとした圧覚とゴリッとした爽快な感触が、靴の裏から伝わる。
どうしてこの世には、余計な命がいくつも無駄に生まれて来るのだろう。苦しむだけなのに。
ふうっと生ぬるい風が、俺の髪を撫でた。
前髪を手でかき上げながら顔を上げると、向こうの木の幹の後ろで人影が揺れたような気がした。
あん? 気のせい?
確かめようと思ったけど、サッとその場で身を潜めた。道路を自転車のライトが横切ったから。
誰かに見られたら面倒だ。さっさとここから離れた方がいい。俺の倫理は今のところ、世間では理解されにくいことは自覚してる。
ふふふっ‥‥
残りの帰り道、俺は足取りが軽くなって鼻歌なんて出て来た。
善い行いをすると、ホント気分がいい。