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悪意の極意  作者: メイズ
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Revealing Personal Anecdote2〈アイノ詩ヲササゲテミヨウカ〉

 実はさ、もうとっくの昔に死んじゃったんだけど、家の親父の父方のじいさんはさ、都内某所の小さな神社の長男だったんだって。


 だけど、神社を継ぐのがイヤで家を飛び出していたらしいんだ。で、彼女と駆け落ちして、うちの親父が生まれたってわけだ。


 結局実家の親からは絶縁されたそうだけど。若気の至りってヤツなのかな?


 昔の人は、なんか生き方が激しいよなぁ。今どき駆け落ちなんて古風なことする人聞いたことないし。


 じいさんは、それが親不孝だったって自分が親になってから後悔していたのかもしんないね。そのせいか、じいさんの息子であるうちの親父は、某神道系大学卒だ。だからといって現在の俺んちが、そこの神社に関わり合いがあるかっていうと特になんも無い。俺も行ったことすらないし。


 あるのは取り敢えずの血筋だけ。


 でね、じいさんが死んだ後、遺品整理してた親父は、処分に困るものを見つけた。


 大昔の人あるあるなのかな? 無届けであろう日本刀なんか出て来ちゃって慌てたとか。なんらかのいわくつきの呪物だったらコワいよね。こういうの。


 後は、ロングカクテルグラスくらいの大きさの、灰色の小さな石像。対の2体。



 それは狐の置き物だった。



 表面はザラザラだし、お狐様だってのはわかるけど、そのボコボコした無骨な輪郭の姿はかなり不気味な代物。歴史を感じさせる石像だった。


 四角い台座と一体になって、ちょこんと背を伸ばして真正面を向いて、きっちり座ってる細長い狐。


 たぶん神棚の左右に鎮座する神具なんだろうから、むやみに捨てるわけにもいかなくて、親父が父親の形見として持ち帰った。


 でね、うちの親父は持ち帰ったけれどそのまましまい込んでしまって、年月が過ぎて、その存在すら忘れていたようなんだけど。



 その石像の存在を思い出したのはコロナのお陰だった。



 実はうちの親父はデルタ株真っ盛りの頃、コロナに感染して発症し、家で検査結果待ってる間に、死ぬ寸前までいっていた。パルスオキシメーターは、80%前半まで下がってた。


 受入れ病院はどこもいっぱいで、入院出来る患者は限られていた。


 が、取り敢えず老人では無かったせい? か、受け入れ先はすぐに決まったけど、近くに大病院いくつかあんのに、日帰り旅行くらい遠地の病院まで救急車で搬送されて行った。救急隊員さん、激務過ぎる‥‥


 当時は患者は絶対的隔離だったから、お見舞いとか世話しに行くとか出来ないから、用がある時はネットで話すしか無かった。


 入院して数日後、親父からメッセージが来た。


 酸素マスクをしながら生死彷徨う夢現に、大きな2匹の白狐が現れたらしい。



 暗闇の中、こちらは息も絶え絶えだと言うのに、更にお遊びのように蹴るわ、鋭い爪で引っ掻くわ、ヨダレダラダラで噛まれるわされたとか。わふわふした息遣いに獣臭まで感じてたらしい。


 それはそれは恐ろしかったそうで。

 

 必死で訴えたたそうだ。『私はこんな人生半ばで、まだ死にたくないから助けてください』って。したら、チッて目で睨まれて、2匹はこそこそ相談してから闇の奥に消えてしまった。


 不思議な夢を見た親父は、あの狐の置き物のことをフッと思い出し、家に連絡入れて来た。


 親父が言うには、夢の白狐はあの石像を依り代にしてる神様の眷属なんじゃないかって。そいつらは、俺たち家族をいたぶりもするが、心からの願いをお伝えすれば、神様に言付けて下さる存在かもしんないって。


 頼まれた俺は、指定の押入れから狐の石像を探し出し、取り敢えず部屋のその辺に祀った。



 死と隣合わせの高熱と酸素不足の息苦しさ。その恐怖の中で、寝たり起きたりの繰り返しの中で見た幻想だったに違いない。俺はそのせいだと99.9%思う。だけど、すっかり忘れていたお狐様が、死を目前として頭に甦ったのは不思議だな。


 その夢を見てから? あれよあれとよと回復して、残された家族は無症状なのに巻き添え自粛で2週間外出できないというのに、親父は10日ほどで自由の身となって、ビール下げて家に戻って来やがった。(無症状の俺らはそれでもまだ家に籠らされ、罹った人はお先に自由、という理不尽)


 急激な快復劇は、お狐様に泣きを入れたお陰かどうかは謎ですが。



 ***



 ネットで検索すると、対の狐の神具は売ってるけれど、うちのは、あんなふうにどこか可愛げがあるのとか、芸術的な飾りのような美品とは全然違う。


 申し訳ないけどさ、なんかこの像は不気味で、フッとなにげに目につくと、存在自体がゾクゾク気持ち悪いから俺の視界には入れたくない。一人で家にいる時は怖いから、ほんとこっち向いてて欲しくない。置き物の狐の視界に俺は入ってたくないってくらいわりと嫌いだ。


 このゾワゾワの原因は、ただ俺が不気味な置き物だと思ってるせいだろう。

 

 この世は物理法則がすべて。心だって脳への電子信号らしいし。


 しかしながらこの世には、人のチャチな感覚器官ではとらえられないモノやコトの方が大半だね。


 人の可視光線の範囲だってかなり狭い。感覚器官は、動物さんや虫さんたちの方が断然優れてる。



 不可思議な世界。それはただ、人間では見つけられない物理が織りなす、幾つもの法則があるだけだろうな。


 最高の頭脳たちが、最新鋭のコンピュータや、大掛かりな装置を使ったとしても分かり得ないその先。存在理論さえ構築できないような、そんな部分を神の領域と呼べばいいのだろうか?

 

 神の領域は広大だ。故に理屈で説明出来ない不思議はあちこちに転がってるからこそ、人の願いと相まって、ファンタジーもホラーもあるわけで。



 ‥‥‥あーん、せっかくのご縁だから、俺も神の領域のお狐様にお祈りしてみっか。



 ***



〈アナタニアイノ(うた)ヲ〉



 運命の一つ星で俺と繋がっているあなた


 あなたは無防備な俺に(しゅ)をかけた


 突如顕現した絆に囚われた俺 


 もがいても無駄だった



 そこまであなたが俺の(ハート)にナイフを突き刺していたいと言うのなら


 いいよ、ならば俺もおまえを放さない



 この先、何が起ころうともこのままずっと俺と繋がっていよう



 いつだってあなたが俺にくれたこの一つ星が、見えない粒子のウェーブで俺たちを繋げてくれている


 これに乗せて、あなたは言葉無き抱懐を俺に向け、俺は切ない(しゅ)を込めた返歌を



 この(いたずら)な絆に、俺は(あい)の呪文を投げかけ続けよう



 可能な限り永遠に




 ───姿は見えなくとも確かに存在しているあなたへ、この詩を捧げる




 ***


 

 

 ───さて、これにて私の言霊による呪文(スペル)は完成致しました。


 このページを開いたあなたの視神経から電子信号が送られ、あなたの脳に私のスペルは刻み込まれました。もう消すことは不可能です。



 ただいま、陰から私に悪意と嘲笑を向ける方々に限定し、『念返し』が発動されましたことをお知らせ致します。


 私はこれまで何回にも渡って警告致しました。が、またしても、私は姿を現さぬ卑怯者たちに悪意と嘲笑を向けられ、嫌がらせをされています。


 返しは倍返しになると言われていますが、定かではありません。どのような効果がいつ現れるかも定かではありません。あるかもしれないし、ないかもしれない。私も結果を見ることはないでしょう。



 ※ここに一つ星が輝いている間は、この呪文(スペル)の効力は切れません。


 ※この星がある限り、私の苦痛は日ごとに増し、念返しも強まっていく想定です。




 この小説のタイトルは『悪意の極意』です。悪意には悪意を───



 ライヴにてこの小説をお楽しみ下さい。




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