遭難メモ
○月13日
下山の途中で猛吹雪にあい、カマクラを作って難を逃れる。田端も矢内も無事だ。俺達は、生きて帰ることを誓った。
○月14日
互いに食料を出しあって平等に分配する。俺は持ち合わせが少なかったが、田端も矢内も快く分けてくれた。持つべきものは友だ。
それにしても吹雪が止まない。
○月15日
空は真っ白になったままで方角も分からない。俺達は互いにもう少しの辛抱だと励まし合った。
しかし、こうも吹雪が続くものだろうか?
○月16日
矢内が吹雪の中に救助隊を見たと言った。俺達はよろこんで吹雪の中に助けてくれと叫んだが、応答も何もない。何もなかったのだ。ぬか喜びだ。それでも矢内は見たと言う。田端が黙れと小さく言った。
○月17日
矢内は未だに救助隊のことを口にする。そして食料の食べるスピードが早くなりすぎだ。あれでは明日まで持たないと止めたが、田端はほっとけと言った。矢内は興奮して田端の声が聞こえないようだ。
○月18日
燃料を節約していたが、矢内が夜のうちに暖を取るために全て使ってしまったようだ。カマクラの中が暑い。田端はストレスいっぱいのようで、ハイテンションの矢内の言うことを全て無視していた。
○月20日
早く、早く、吹雪よ止んでくれ!!
○月22日
矢内が死んでいた。
○月24日
久しぶりに肉を食べた。美味しかった。
○月27日
まだ田端が食料を隠しているようだ。
○月30日
もう人には戻れない。
○月34日
家に帰りたい。
○月44日
肉尽きる
○月51日
てお たべて しま た
◇
□月31日。救助隊は雪の中に手帳を見つけた。しかしその手帳だけで、捜索していた三人の荷物もご遺体も見つからなかった。