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プレアデスより輝いて

作者: めんてて

 世は、大アイドル時代。


 ありとあらゆるアイドルがしのぎを削りあい、”天下統一”を目指す、そんな異常だけど、面白い時代。


 そんな時代に、あるアイドルを推している、地味なオタクが居た。


 これは、そのアイドルと彼が出会い、彼の世界が変わっていく、そんなお話──。



 アイドルグループ「プレアデス」。そこに所属する四万十ミイロ。俺は、そんな彼女を推しているだけの、ありふれたオタクのうちの一人、とだけ言っておく。


 プレアデスはアイドルグループではあるものの、歌って踊れる、というよりかは、歌がメインのグループだ。この大アイドル時代。今となっては、あらゆるアイドルが歌って踊れるアイドルを目指し、自分をタレント化していくことを目標とするが、プレアデスのアイドルだけは、基本的に歌一本で勝負する、といった感じだ。


 その中でも四万十ミイロは、抜群の歌唱力という実力で人気を勝ち取り、現在人気がうなぎのぼり中。もちろん、その美しい金色の長髪と、碧色の瞳という、あまり見かけない優れたルックスも、人気の理由だ。初期から推している俺としては複雑な気持ちだが、”推し”の歌が多くの人に知られていっているのなら、ファンとしてはむしろ喜ぶべきことなのだ。


「お前、本当に独り言が多すぎ」


 隣の男がそう呟く。うるせ。わかってら。だいたい、待たされてる間がヒマなんだからしょうがないだろ。


「プレアデスの握手会がこんなに混むなんてなぁ。秋葉原までもっと早く来ればよかったよ」


 そう、今俺たちはプレアデスの握手会へ来ている。ものの、絶賛大行列の中で揉みくちゃにされている所であり、今が夏でも冬でもなく秋であったことに感謝すら覚えるぐらいだ。


「多分、メディアとかで取り上げられたんじゃねえのかな。明らかに人が多すぎるし」


 会場自体は屋外だから問題ないはずだが。順番が回ってくるまでにタイムオーバー、ってのだけは勘弁してくれよな。


 ……なーんてことを駄弁っているうちに、手首の時計の針は、今が既に夕方であることを指し示していた。そう。いつまにか夕方になっていたのだ。


 まだかまだかと思っていると、「次の方どうぞー」という案内の声が聞こえた。どうやら天は俺に味方をしてくれたらしい。ありがとう、神様。


 握手会のブース。その前に来た俺は、四万十ミイロの列へと通された。


「あっ、いつもライブにお越し頂いている方ですよね!?」


 目の前のアイドル、女神のような出で立ちの四万十ミイロはそう言うやいなや、俺の差し出した手を両手で握りながら、驚き二割、嬉しさ八割といった表情をしていた。……勘でしかないが。


「応援ありがとうございます!」


「い、いえ。こちらこそ。これからも頑張ってくださいね」


 また応援します、とだけ言い残して、その場を去る。


 ああ、なんて幸せな時間だったのだろう。まるで煩悩まみれの心が浄化されたような、清らかな気持ちだね。これもアイドルの為せる技、なのかもなぁ。


 だが。今日の中で一番記憶に残ったこと──には、ならなかった。



 その日の夜。友人と別れ、少しだけ軽食をとった俺は、帰路についていた。思えばこのとき、「たまには秋葉原を見て回ろう」なんて思わずに、さっさと帰っておけば良かったのだ。


 そうしなかったから、遭遇してしまった。日常の裏側、非日常の事象に。


 夜の路地裏。危ない人達が危ない事をする為には最適の場所。そう頭の中では理解していたが、どうしても自分の中の知的欲求を抑えられず、その路地裏から聞こえる声の発信元を、ちらりと見た。


「……!?」


 ほんの少しの明かりしか無い暗がり。普通なら人影が見えたとしても、流石に誰かまでは分からないだろう。だが、違った。そこに居たのは、普通の人影ではなかった。


「Sparkful Dreamsのアイドル……多摩える瑠……か?」


 暗がりの中にハッキリと見えたのは、新進気鋭の、弾けるような明るさを売りにしたアイドルグループ、Sparkful Dreamsに所属する多摩える瑠の姿。それと、男らしき人影が何人か居るようだった。


 既にアイドルとしての活動は終了しているはずの時間であるが、彼女はなぜか、アイドル活動をする際のコスチュームを着用していた。どういうことだ?


 そんな考えを巡らせている最中、突然”それ”は起こった。


 多摩える瑠の周囲に居た二人の男が、血しぶきをあげて急に倒れた。


「……!」


 声を圧し殺してはいるが、正直吐きそうだ。その男は倒れた後もうめき声をあげている。映画の撮影か何かなのか。頼むからそうだと言ってくれ。


 そんな男たちに追い打ちをかけるかのように、多摩える瑠と思わしき人影は、その倒れた男たちを踏みつけているように見える。先程の微かに聞こえるうめき声ではなく、今度ははっきりと苦しむ声が聞こえてくる。そして、多摩える瑠の、笑い声も。

 

 その男たちを踏みつける度に、彼女のトレードマークだったツインテールが揺れている。これは多分ヤバイ。ここに居続けるとヤバイ。俺の中の危機感知センサーがそう告げている。


 その時。背負っているリュックの横に入れていたペットボトルが落ちた。なんで今なんだ。まずい。まずいぞ。後ろを振り返って逃げようと──。


「うーん? どちらサマですか?」


 さっきまで路地裏に居たはずの多摩える瑠が、俺の目の前に居た。何なんだよ。何なんだよこれは。


「たまたま通りかかったオタクちゃん……かなぁ?」


 そう言うと、多摩える瑠は耳に人差し指を当てて小声で何かを話している。彼女の服についている赤色の模様を見ると体が震える。足が動かない。撮影だろ。そうなんだろ。


「違いますよ~?」


「でも、殺しちゃってもいいらしいので、死んでくださいね~」


 顔は笑っている。だが、その赤色の瞳は、真っ直ぐに、まるで獲物を見つけた蛇のごとく、俺の顔を睨みつけていた。



 息が上がる。普段から運動をするべきだった。だが、まさか、こんなアイドルのような殺人鬼に追い回されるとは俺も思わなかった。


「死んでたまるか……死んでたまるか……死んでたまるか……」


 自己暗示するように、自分に言い聞かせる。当たり前だ。こんな異常なことに巻き込まれて死にたくなんて無い。だが、そんな俺の思いとは裏腹に、多摩える瑠は、笑いながら俺を追いかけてきていた。


 だが、急に立ち止まり、


「ねずみみたいにどこまでも逃げ続けますね~。もう飽きました」


 そう言うと、先程のようにまた俺の目の前に現れ、


「じゃ、死んでください」


 次の瞬間に、俺の下腹部に、ナイフが突き刺さっていた。だが、見た感じ、包丁とか、そういう類のものではない。まるで軍隊が使っているアーミーナイフのような形状だ。


「すごーい! しぶといですね」


 視界が霞んで前が見えない。だが、腹の方に、また鋭い感触がしたのは何となく分かった。もう、立てなさそうだ。


「な、何者なんだよ……アンタ」


「知らなくてもいいことを知ろうとするのは、嫌われますよ?」


 微かに、多摩える瑠の手が振り上げられるのが見える。なんだ。死ぬのか、俺。こんな訳わからんアイドルに腹を刺されて、死ぬのかよ。


 腹の辺りが熱い。意識が遠のく。せめて、誰かに電話ぐらいしたかったな。クソっ。


 しかし、何の運命か、俺は死ななかった。


 目を閉じようとした際に、光が見えた。自分を包む、変な色の光だ。死ぬ間際に幻覚まで見えるようになったのかと思ったが、下腹部から痛みが引いていくのを感じ、どうやらそうではなさそうだ、ということが分かった。


 うーん、とか言いながら上体を起こした俺の目に飛び込んできたのは、多摩える瑠と俺の間に割り込んで立っている──


 ──四万十ミイロの姿だった。


「な、なんであなたが……」


「話は後で。もう立てる?」


 は、はい。と言うと、手を貸してくれた。聞きたいことは山ほどあるが、後で話してくれるというのなら、今は何も言うまい。


「私の仕事が済んだら、話してあげるよ。熱心なファンくん」


 天使のように俺に微笑んだ四万十ミイロは、多摩える瑠の方へ向き、


「多摩える瑠ちゃん、私達のチカラは人に使ってはいけないはず。そう教えられたでしょう」


 普段と同じような、しかしどことなく鋭い口調で、目の前の殺人アイドルに語りかけている。


「真面目だねー、優等生の四万十ミイロは。私達はアイドルに選ばれた。ファンにね。なら、そのチカラを誰の為に使おうが、勝手だとは思わないの~?」


 血がベッタリとついたナイフを持ち、くるくるっと回りながら、四万十ミイロに語り返す多摩える瑠。その笑顔は、心の底から今の状況を楽しんでいるようだった。


「……最後の忠告。投降しなさい。あなたは罪を犯した。でも、私達にチカラを貸してくれるのなら、悪いようにはしない」


 四万十ミイロは、服のポケットに手を入れ、何かを準備しながら多摩える瑠にそう言った。チカラ? 投降だと? クソ。頭がどうにかなりそうだ。


 「ふふ、本当に四万十ミイロは優等生だね。こんな状況になってもボクに情けをかけるとは。君を殺す準備をしているとも知らずにね~」


 多摩える瑠はぴたっと、こちらの方を向き直り、ナイフを持ち直す。


「し、四万十ミイロさん! アイツは危険だ! ここから逃げないと」


 口を挟んだ俺の方へ四万十ミイロは向き直り、


「大丈夫だよ」


 口に人差し指をあて、そう言った。

 

「あ、あと、耳を塞いでおいて」


 は、え?


「私が今から歌う歌は、人を勇気づける歌でもなければ、人を助ける歌でもない。人を、死なすための歌だから」


 次の瞬間。多摩える瑠が先に動き出す。それを見た俺は、耳を塞ぎうずくまる。とにかく、四万十ミイロは何かをしようとしている。なら、邪魔にならないようにするしかない。


「なっ!? ボクの刃が」


 多摩える瑠のナイフは、俺の時のようにはいかず、四万十ミイロに躱された。その四万十ミイロが、耳のイヤホンのようなものに手をあて、何かを呟いている。


削除許可(デリートアクセプト)。コードーK1980に基づき対処を行う。対象多摩える瑠を無力化します」


「歌しか歌えないアイドル風情が、ボクを殺すだって? 冗談も大概……に……」


 四万十ミイロが服のポケットから出したのは、至って普通のマイクだった。


「はは、ははははは! こんな時にも歌しか歌えないんだね! 」


「そうだね。私は歌を歌うことしか能がない。でも、」


「キミを倒すには、これで十分だ」


 多摩える瑠が言葉を返す前に、四万十ミイロが歌い出した。その姿は、いつものライブで見る姿と同じだ。だが、歌っている歌は……どうやら違うらしい。


「何だこの歌……ボクの頭が……割れる……」


 多摩える瑠が頭を抱えて、膝から崩れ落ちる。


「く、クソが! ボクがこんな歌ごときにやられる筈が……あ……」


 多摩える瑠が、今度は完全に倒れた。


「大丈夫?」


 先程の多摩える瑠よろしく、いつの間にか俺の目の前に移動してきた四万十ミイロ。もう勘弁してくれ。


「こ、殺した……のか?」


 倒れているイカれアイドルの方を見る。多摩える瑠は動かない。


「いえ、正確には、動けなくしただけ。全身の筋肉を麻痺させたから。生命の維持活動に必要なもの以外は」


 歌でそんなことをしたのか。


「ええ。それが私のチカラ」


「さっきから、チカラだの何だの、一体全体何なんだ! 頼むから教えてくれ!」


「……許可を取る。多摩える瑠の処理が終わるまで待って」


 処理だって? と思っていると、いつの間にか、俺たちの周りに、黒いスーツの怖そうなお兄さん達が集まってきていた。


「こ、この人達は……」


「彼らはプレアデスの人達。あなたに危害は加えない。変なことをしない限りは」


 変なこと? 変なことって何だ。今、俺が直面してるこの状況を変なことと言うんじゃないのか。これが変なことでなければ、変なのはこの世界だね。


勧誘許可(インバイトアクセプト)……いいよ、話す」


 インバイト。今インバイトって言ったのか? 悪いが、何かの勧誘はごめんだ。もう帰りたい。帰って忘れて、明日からは日常に元通り。そうなりたいんだが。


「別にいいよ。でも、知りたいことを知らないままでいることが嫌いでしょ?」


「そ、それは……って何で俺の性格を知って」


「それに、明日の朝にはあなたは物言わぬ死体になってるかもね」


 へ? 何だって? 死体だって? 冗談はやめてくれ。頼むから日常に帰してくれ。


「冗談じゃないよ。Sparkful Dreamsが黙ってない。所属のアイドルが人を殺した所を黙ってみてるわけがないしね」


「それで、あなたはどうする?」


 四万十ミイロの、碧色の目が俺をまっすぐに見つめてくる。


「……分かったよ。聞いたら仲間になれ、その代わり身柄は保護する、って訳だろ? 俺も寝てる間に死にたくはない」


 最悪な一日が、ようやく終わろうとしていた。



「アイドルは、みんな私や、多摩える瑠のようなチカラを持っている」


「その、”チカラ”ってのは一体何なんだ」


 四万十ミイロと、数人の黒服の男に連れられて、黒色のセダンに乗せられている。どうやら、プレアデスの事務所へ向かっているらしい。俺は、その道中で、彼女に疑問を投げかけている。


「チカラはチカラ。みな、アイドルとして優れた部分に関連したチカラを持っている」


「みんな……って、あの『Daydream』や、『偏食的☆妄想のーつ』とかもってことか!?」


「……きみ、アイドルのオタク?」


 い、いや。そうでもない。そうではない。オタクっぽい何かであって、オタクというわけではない。断じて。


「そう。そうだね。彼女たちもアイドルである以上、私のようにチカラを持っているよ」


 そう言った四万十ミイロは、神妙な面持ちで手をぐっと握りしめた。


「でも、多摩える瑠の、える瑠ちゃんのように、道を踏み外すアイドルも居る。私達プレアデスは、そんなハミダシモノに対処する役割」


 じゃあ、そのチカラはどうなってるんだ。何もある日突然……ってわけではないだろう。


「その通りだよ。私達は、アイドルとして”在る”とファンに認められた瞬間に、チカラを授かる。理由は分からない」


 でも、と四万十ミイロは言い、


「どうせ使うなら、応援してくれているファンや、世の中の為に使いたい。私はそう思う。だからここに居る」


「……違いない、な」


 多摩える瑠の事を思い出す。彼女は新進気鋭のSparkful Dreamsのメンバーではあったものの、メンバーとの喧嘩や、ファンとのトラブルが絶えないアイドルであったらしい。


”アレ”を見た後には確かにそうだ、とは思うが、果たして、最初からそうだったのだろうか。彼女があんな性格になったのは、ファンである俺たちのせいでも、あるんじゃないのか。


「気にしすぎる必要はないよ。彼女は結果的に、きみのような人に危害を加えて、殺した。過程はどうあれ、それは罪だ。罪を犯したのなら、裁きは受けなければならない。ただ、それだけだよ」


 そう言った四万十ミイロの顔には、どこか、寂しそうな印象を覚えた。



「着いたみたいだね」


 車のエンジン音が停まる。ふと腕時計に目をやると、もう深夜12時を回っていた。こんな時間に事務所が営業しているのだろうか。


「営業してない。でも、”プレアデス”は年中無休だから」


 は、はぁ。納得できるような、できないような。警察とかと同じ理論か? 何時でも駆けつけなければならない、みたいな。


 プレアデス、という看板が付いている建物に入るのか、と思いきや、その横にある地下への入り口に入るらしい。怪しすぎないか。


 そんな悪の秘密結社みたいなところに入ったところで、俺は思っていた。きっともう、日常には戻ることができないんだろうな、とか。せめて、友人とかには一報入れたい。駄目だろうか?


「わからない。オーナーに聞いて。それも、あなたの身の振り方しだい」


 四万十ミイロは前に向き直り、


「オーナー。連れてきました。先程言っていた人です」


 オーナー、と呼ばれた女性は、一言で表すなら美女だ。元アイドルが事務所を経営するパターンも増えてはいるが、そういう感じだろうか。とにかく、一般人にしては、どうにも美人すぎる。


「あら、あなたが! もう大丈夫だからね~!」


 そう言うとそのオーナーは、俺を、俺を抱きしめてきた。どうなってんだ。ここは。


「ではオーナー、私は寝ます。ギャラはいつもの1.7倍で。おやすみなさい」


 そういった四万十ミイロは控室のようなところへ入っていく。


「分かってるわよん。相変わらず無機質な子ねぇ」


 無機質? 表のライブとかを見る限り、とても彼女が無機質とは思えないのだが。


「ああ、それは取り繕ってるのよ。アイドルはまず元気じゃないと、ね?」


 ウインクして俺を見るオーナーと呼ばれる女性。いや、俺に言われても。


「それで。どうするの、あなたは? ミイロちゃんから聞いてるでしょ?」


「ええ。何となくは察してましたよ」


 正直、悩んでいた。当たり前だろ? これにうん、と頷けば、俺の日常は終わりだ。もちろん、アイドルは好きだ。だが、自分の人生を捨ててまで、やる事なのか? 俺は。


 だが、俺は、四万十ミイロに命を救われた。それは、一生をかけても返さなければならないほどの、借りなんじゃないのか。いや、死んだ後にも返し続けなければならないほどの。


 彼女は、ただのオタクの俺を助けてくれた。なら、答えは一つだ。


「手伝わせてください。あなた達の仕事を。アイドルが好きなんで、一応力にはなれると思います」


「ならば良し!」


パン、と手を叩くと、オーナーは俺に告げた。


「ようこそ、プレアデスへ。ここのアイドル達はみな、戦いにも長けている。でもみんな、アイドルよ。プレアデスのように輝きたい。アイドルとして、輝いていたい。あの空に光る星よりも」


「あなたに、それをサポートする覚悟は、あるかしら?」


 先程までのふざけた感じではなく、真剣に聞いてくる。ならばこちらも真剣に返そう。


「勿論です。覚悟はできています」


 

 俺の日常が、終わりを告げる音がした。



「行くよ。また暴走したアイドルが出たらしい」


 その後の俺は、まさかとは思っていたが。四万十ミイロの専属マネージャー、もといバディとなっていた。本来、二人で動かなければならない仕事らしいのだが、四万十ミイロは、今までバディを取っていなかったらしい。が、なぜか、俺にご指名がかかった。そういうことだってよ。


「準備はどう」


「だ、大丈夫だと思う。言われたものは全部入れたぞ」


「良し。行こう」


 四万十ミイロはスタスタと事務所を出ていく。普段ライブで見ていた姿とのギャプがすごいな。頭がくらくらする。


「あら、出動?」


 オーナーだ。彼女はどうやら、この事務所の”表”の顔役であり、業務から後処理まで、基本的に彼女が担っているらしい。とんだブラック事務所だな、とは思うね。


「頑張ってね。ミイロちゃん、あなたと仕事をできるの楽しみにしてたわよ」


 本人からも聞いてない話なんだが、あなたが言って良いのかよ。


「あ、いっけね」


 てへっ、と頭に自分で軽くげんこつするオーナー。いや、ネタが古い。



「じゃ、行ってきますよ」


「まだなの」


 今出ようとしてたところだったんだよ。遅くなって悪い。


「大丈夫だ。じゃ行くよ」


「ああ、分かった」


 少し嬉しそうな顔をする、四万十ミイロ。


 

 ──また、仕事が始まる……。って、いや、……非日常を楽しんでないか、俺?

お読みいただき、ありがとうございました。

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