表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乾杯!  作者: 蝶佐崎
6/21

人を想う涙・5《邂逅・1》


「優しいんだな」


 後ろからかけられた声に、とっさに反応できなかった。振り返ると、風変わりな男性がテラスにもたれてこちらを見ていた。

 錆色と呼ばれる、錆びた鉄のような茶色の髪に、灰色とも銀色とも言えない瞳。髪は細く腰まで伸ばし、三つ編みにしている。顔にはフレームの細い眼鏡をかけ、笑みを彼に向けていた。

「あなたは……?」

「ただの覗き人だ。気にするな」

 するりと言った彼は、眠るジュンに近寄り、彼女の抱き抱える瓶を睨む。

「飲み干したか。馬鹿め」

 男性は細い長身で人を避けながら中に入っていき、やがて酒の入ったコップを持ってきた。

「久々の酒だ」

 嬉しそうに言った彼は、飲み干すこともなく、ちびちびと酒を飲む。まるで、大事に取っておくように。

 小さく一息ついた男性は、優しくジュンの頭を撫でた。


「こいつは、可哀想なやつだよ。置いていった俺達が言うのもなんだがな、この時代じゃ、あいつの子供時代を知るやつはもう誰もいない。独りぼっちなんだ」

 コップを置いた男性が上を向き、満月を恨むように睨む。

「昔の友や仲間はみんな逝ってしまった。唯一、ずっと一緒にいたあの人まで逝ったんだ。今、こいつは本当に独りぼっちなんだ」

 涙声になった彼が手で顔を覆うのを見て、ジルは我慢できなかった。ジルはジュンと男性を、抱き締めた。

 どうしてそうしたのかは分からない。ただ、涙が溢れてきた。

 自分までもらい泣きしてはいけないと、嗚咽をかみ殺す。涙を見られたくなかったから、下をむく。


 ふと、ジルの頭を撫でた手があった。顔を上げると、涙に濡れた顔を月夜に光らせる男性がとても辛そうに笑っていた。

「ありがとう」

 謝辞に、ジルは首を振る。

 この男性が誰なのか、分かった気がした。男性はジルの腕を解き、テラスに腰かける。震える手でコップを持ち、あおる。

「……こいつの話をひとつする。こいつは、神の子だった。周りからは賞賛の眼で見られていた。しかしこいつにとって、そんな血に一つもいいことはなかったんだ。体の成長が遅い。世界を守らなければいけない。何より、周りの人間に置いていかれる」

 ジルは置いていかれるという言葉に寒気を覚えた。

「よく苦しんでいた。神の子がなんだ。世界がなんだ。世界と親友を秤にかけて何が悪い。どうして死んじゃ駄目なんだ。みんなのあとを追っちゃ駄目なんだ。そう、叫んだ声も聞いた」

 男性は厳しい瞳で、コップの底を睨み続ける。

 その底に、水滴が一粒、吸い込まれるように落ちた。

「俺が死期を感じたときも、淳は苦しんでいた。俺が死んだらあとを追ってくるかもしれないと思って、怖かった。だから俺は一つ、こいつに呪いをかけた」

 これは懺悔だ、とジルは理解した。

 大切な女性を置いて逝ってしまった幽霊の、悔いても悔やみきれない告白だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ