人を想う涙・3
「団長!」
金髪碧眼で、寡黙な大将は忠義に厚く、誇り高い。彼が頭を下げたことがある相手は、両親と国王だけとの話も聞く。実際、ジルは団長が頭を下げたところなど、一度も見たことがない。
その団長が、女性に向かって、静かに頭を下げた。
「!?」
副団長も驚愕している。
「お久し振りです」
女性は二人を無視してひょうひょうと話しかける。
「そうだね。いくつになった?」
「今年で三十に手が届きます」
聞いた彼女の目が、薄く細められた。
「あれから十年経ったか」
素っ気なく頷いた団長が、背を向けた。
「トレラ砦に招待します」
団長が先頭を歩き、その後ろを女性が、またその後ろを副団長とジルがついていく。
ジルは副団長につつかれた。
「ジルお前、どんな傑物を連れてきたんだ。団長が頭下げるなんざ、初めて見たぜ」
「僕もです。というより……」
楽しげに団長に話しかける女性を見ながら、ひそひそ話を続ける。
「正直あの女性があんなに凄い方だったとは、思っていませんでした」
「聞こえてるよ」
「うぎっ」
ジルは飛び上がった。その彼の頭の上に、女性が腕を置く。
「そういえばだけど、君たちの名前は?」
「オレはガラナ。ガラナ・スフレだ。副団長を務めてる」
「僕はジルって言います。ジル・ローゼンです」
「ん。俺はジュン。ジュン・タチバナだよ」
おかしな名前に、思わず副団長と二人、顔を見合わせた。ジュンはまだありそうな名前だが、タチバナというのはあまり聞かない名だ。
二人の疑問に気付いたのか、ジュンは苦笑しながら肩を竦める。
「遥か遠く、東洋に日本って国があるのは知ってるかな? 俺の旦那はあそこの出身でね。まあ、俺も日本出身なんだけど」
「へえ! すげえな!」
「遠いところをわざわざ! 何しに来られたんです?」
聞くと女性は笑いながら、前を歩く団長を指差した。
「お墓参り。あの堅物に会うつもりはなかったんだけどね」
とたん、ジルは自分でも表情が強ばるのが分かった。
「……そうですか」
いきなり、前方の団長が壁を蹴った。
「!?」
彼の奇行に三人で飛び上がると、団長は嫌々のような顔でジュンを睨み、蹴った壁を指差した。
「覚えていますか。あんたがかけた魔術」
「ん? ああ、思い出した!」
顔を明るくしたジュンが、思い切り壁を蹴った。
「ジュンさんまで!?」
「何しやがる!?」
すると、団長が蹴ってもびくともしなかった岩の壁が、いともかんたんに砕ける。そこから現れたのは、精巧に作られたと一目で分かる、細長い刀だった。
口をへの字にした団長がそれを取り出す。
「昔あんたに冗談で隠されて、あれ以来取り出せなかったんですよ。しかも先ほど、会う気は無かったと仰いましたが。つまり、俺は三席があなたを連れてこなかったら、俺は一生刀を取り出すことが出来なかったと……」
説教にジュンは引きつった笑みを浮かべて、酒場を指差した。
「お酒が飲みたいなあ!」
あからさまな話題転化にジルはずっこけた。副団長はがっくりと脱力し、団長は肩を落とした。
「……相変わらずお酒は大好きなようで」
「生まれたときからそうだからね。たかが十年じゃあ変わらない変わらない」
からからと笑ったジュンが、鼻歌混じりに駆け出した。
ジュンが平気の平左で酒の瓶をあけるのに比例して、他の兵が集まってきた。
やがて、どんちゃん騒ぎになって、ジルの時のお祝いのような、賑やかな場になった。




