人を想う涙・2
広がった壮大な景色に、ジルは言葉を失った。
青い、吸い込まれる空から風が吹き降りてくる。風は若草色の草原を揺らし、草原は大昔からここにそびえる白い墓を避けるように揺れる。
誘われるように一歩踏み出したジルは、道中摘んだ花を手に、吸い寄せられるように一つの墓に歩み寄る。
「そいつに手向けてくれるんだね」
墓に花束が手向けられているのを見て、そして後ろからかかった声に思わずジルは振り返った。
女性は嬉しそうに顔を歪めていた。
「貴女が花束を置いたんですか」
「そうだよ」
貴女は何者なんですか。
ジルはその問いを呑み込み、花を花束の隣に添える。
しばらく黙祷したジルに、女性はぽつりと呟いた。
「ありがとう」
それから二人は国に戻った。
聞けば、女性は旅人らしい。昔ここにも一度立ち寄ったことがあったので、道案内もできたとのこと。そして今は、ジルの祖国を目指していたとのこと。
丁度ジルも帰るところだったので、お礼を兼ねて騎士団が詰めているトレラ砦を案内することにした。自分たちを見つけた兵士が慌てて開門するのを見ながら、ジルはどういかさまを暴いてやろうか思案中である。
と、女性の口笛が聞こえた。
「何にも変わってないね、ここは」
「……はい?」
思わず女性を見たジルは、荒々しい足音にまた前を向く。
「おうおう、第三席が魔の森からのご帰還だ!」
門をくぐって現れたのは、長身の男性だ。良く言えばガタイの良い、悪く言えば図体のデカい、ゴツい体格で、日に焼けたような肌に黒い髪と瞳が良く合っている。
ジルは男性を睨んだ。
「誰ですか、イカサマしたのは。副長、その顔からして知ってますよね」
「そうカリカリすんなって。実はオレなんだけどな。まあ、そんなことより、だ」
「ええっ!?」
それはスルーして良い問題ではないはずだ。突っ込むかどうか激しく悩んだジルだったが、副団長が眉を潜め女性を眺めたのを見て、頭が冷えた。
「こちらの美人さんはどなただ? トレラ砦の見学は明後日の筈だが。それに、美女は美女なりの礼儀ってもんがあるだろう。せめて動きやすさ重視で男装に走るのは止めてほしかったな」
「おっ、上手いこというね」
女性が嬉しそうに両手を叩く。慌てて副団長に説明した。
「この方とは魔の森で会いまして、命を助けてもらったんです。招待してはいけませんか?」
一転、渋い顔になった副団長である。
「魔の森かあ……まさか、暗い森に怯えて闇雲に走って転んだところに手を差し伸べられた、なんていうなよ?」
ジルは否定できなかった。それもある。推測というのに、ピンポイントでそちらだけ当てるのも、中々すごいのではないか。
女性がジルの肩を持った。
「あ、違う違う。確かに転んではいたけど、手なんか差し伸べてないよ」
「突っ込み所満載のような気がするが、まあスルーしようかね。で? あんたはジルをどんな要件で助けたんだ?」
「普通に魔獣と戦ってて。彼が不覚にも後ろをとられたから、そいつを殺しただけ」
「不覚、だあ?」
副団長の瞳が剣呑な輝きを帯びる。
「おいクソガキ、この騎士団の第三席ともあろう騎士が、女性ごときに助けてもらうたあ、何事だ?」
「心配するな」
思わず、その声に三人は砦の奥から歩いてくる人物を見た。
「その人には、オレもお世話になった」
前回かなり長かったようで……(汗




