解かれた問題・4
沈黙を破ったのは、ジュンだった。
「君と坊やが初めに会ったあの女性ね、実は幽霊だったりする」
思わず吹きかけたが、ぐっとこらえて飲み干した。
「……あの、聖なる土地の?」
「そ。もう少し言うなら、君達二人が手向けたあの墓の方」
無言で続きを促す。
ジュンは軽い調子のまま、あっさりと口を開いた。
「絶対神様だったんだよね。俺はあの人の側で二十年もの間成長したけど、あの人はずっと、成人の姿から変化してなかったし。それにカッコいい獣に変身できるし」
見た目成人前後にしか見えない彼女に、どこから突っ込もうか考えていると、ジュンがまあ、と言葉を続ける。
「でもまあ、死んじゃったら意味ないか」
思わず、言葉を呑み込んだ。
「あの人が亡くなったときは、もう悪夢でも見てんのかと思ったんだけどね。現実だと確認したときは、もう怖かったのなんの。真っ暗な宇宙に放り出された感じ。道標だったあの人がいなくなって、狂乱しちゃったしね」
コップを置いた彼女は、ぼんやりと両手を眺める。
「で、気が付いたら辺り一面血の海。手にもべったり血とか浸いてたりして。止めてくれたのはダチだったんだけど、あいつにも、あの人の遺書にも、旦那の遺書にも救われたなあ」
「……それは」
ジョエルは何も言うことができなかった。ただ、強烈で、壮絶で、哀しかった。
そして彼には、ジュンは話したがっているように思えたから、口を開けた。
「……その二人の遺書には、何と?」
「旦那のには、俺達が守りたかった世界がどうなったのか、しっかり見届けてからこっちに来い、って書いてあった。あいつらしい堅苦しい文面だったよ。で、あの人のには」
ジュンはコップの酒を飲み干した。
「私の娘がどんな人生を辿るのか、その子孫やあなた自身の孫たちの人生を見届けるぐらいの意気込みで生きなさい、って書いてあった。さっぱりさっくり書かれてたよ」
「それで? その方のご息女は……」
「ちょっと前に息を引き取った。寿命でね。孫やひ孫に囲まれて、羨ましいぐらい、幸せな人生だったよ。ちなみにそのひ孫ちゃんは、この大陸の中央で王妃をやってたりする」
ジョエルは酒に口をつけてから、ジュンを見つめた。
「おうひ……王妃!?」
「知らない? 最近結婚した、闘神の娘って言われてた子」
「え……ではまさか、あの姫将軍!?」
「ご名答。それからジョエル君、落ち着いて座ろうね」
言われてジョエルは、初めて自分が立ち上がっていたと気付いた。
座りながら話す。
「それはまた……大出世ですね」
「でしょ? でもあの子は正直王妃の地位なんて、どうでもいいらしい」
「では何故王妃に?」
「国王が誰か王妃を迎え入れなきゃならなくなって、困っていたから。だったら自分みたいな、他の国の影響を受けない娘を王妃にすればいいだろう、ってね」
思わず机に突っ伏した。
「すみません、どう突っ込めばいいのか分かりません。ただ……ごめんなさい呆れてものが言えません」
「その気持ち、かなり分かるよ。でもね」
親身になって肩を叩かれた。
しかし、体を起こすと、ジュンの瞳が少し潤んでいた。
「王妃になれば、必ず子供を生まなきゃならなくなる。そしてその子が次の国王になる。つまり、あの人の血は薄くなりこそすれ、決して絶えることはない。安心したんだ」
ジュンは仙人なのかもしれない。
ジョエルはふと、そんなことを思った。
彼女は過去の追憶にひたり、今を見つめながら同時に未来も、時には過去の姿も重ねて見ているのかもしれない。
「そのひ孫ちゃんに一度会いに行ったんだけど、本当に性根があの人にそっくりでさ。ああ、やっぱりあの人の魂は根付いてるんだな、って痛感したんだ」
ジュンの瞳に、あの亜麻色の髪の女性との日々が映っているのだろう。
「俺には見えないけど、あの人があの子達を見守っていてくれている。そう思えただけで充分さ」
知らず、ジョエルは頭を机に乗せていた。ジュンがからかうように、彼の額をつつく。
「あれ? さすがに酔ったかな?」
酔ってなんかいません。
そう言いたいのに、口が動かない。
やがてまぶたが重たくなって、ジョエルは目を閉じてしまった。
全く関係がないのですが、
今夜の真夜中から明日の朝方にかけて、しし座流星群があるらしいのです。
一番流星の数が多くなるのは6時過ぎなので明るくなって見えませんが、5時ごろならまだ見えるらしく。
早起きな方はぜひ空を眺めて下さい!
以上、天体観測をしようとして失敗した学生からでした……




