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乾杯!  作者: 蝶佐崎
16/21

解かれた問題・3


「何か起きるのですか?」

「師走の乱を覚えているかい? 間違いなく、あれとそっくりそのまま、同じ出来事がこの城に起きる。小規模(しょうきぼ)なのが救いだけど」

 国王の顔が蒼白になった。自分の顔もそうなっていると自覚しつつ、ジョエルは言いつのる。

「どうしてそう思われるのですか?」

「貴族でも何でもない俺が離宮(りきゅう)に招待され、王妃候補と目される。それが気に食わないと思う諸侯(しょこう)もいるだろうさ。そいつらと、日頃から君の政治を快く思わない奴らが結託したら、どうだい?」

 うっすらと笑ったジュンにジョエルは背筋を震わせた。

 目の前にいるのはただの女性だというのに、この威圧感は何だ。

 国王が口を開いた。

「狙われるのはオレとジュン殿だな。襲撃は夜だろう。なら、オレは今夜から、この離宮に泊まるとするか」

 ジョエルは国王をしばきたい気持ちに駆られた。しかしそこはぐっとこらえ、代わりに将軍がよくやる雷を落とす。

「どうしてそうあっさり決めますか!! 警備を増やして、ジュンさんを城に入れればいいでしょう!」

「俺がイヤなんだよ」

 ジュンの言葉に、ジョエルは即席(そくせき)でハリセンを作りたい気持ちを抱いたが、即座に押し殺す。

 彼の気持ちに気付いているのかいないのか、ジュンは続けた。もし気付いていないのならば、それはもう一種の才能だ。

「だってさ、俺が力を奮ったら、警備の人まで殺しそうだし。だったら守る人間は一人の方がいい」

 言い種にジョエルは突っ伏した。国王が苦笑ぎみに言いたいことを引き取る。

「オレももう、一国の王です。腕に自信はあります。それでもあなたはオレを会った当時の十歳の若造のように扱いますか?」

 十歳の若造?

 ジョエルは顔を上げた。

 見た目が二十歳前後、多くて二十三ほどに見える彼女は、へらりと笑って国王の肩を落とさせた。

「俺から見れば、誰も彼もが若造さ」

「さいですか」

 額を押さえ溜め息を吐いた国王は立ち上がり、寝室に上がる、と言ってきた。


 襲撃があったのは、意外にも翌日の昼間だった。

 国王が姿を現し、その場にいたジョエルと三人でお茶会をしていたときのことである。

 息を切らして駆け込んできた国王の従者(じゅうしゃ)の背中に剣が突き刺さりかけ、それをジュンが当て身でかばう。ちなみに剣は彼女がすいと掴み取ってしまった。

 側転(そくてん)でもするように体を回転させたジュンは、手首のひねりだけで跳躍(ちょうやく)し、入り口に現れた物騒な人間たちの目の前に降り立つ。

 額にかかった美麗な金髪を指で払った彼女は、にこりと笑った。

「君達は俺と国王、ジョエル君のうち、誰を殺したいんだい?」

「願わくは三人共だな!」

 怒鳴った一人が剣を抜くが、ジュンの足蹴で壁に叩きつけられ伸びる。

 その隙にジョエルは小間使いと共に壁際まで下がっていた。彼は自分が戦力になれないのを自覚している。

「それでも何か腹立つなあ!」

 ジュンからの罵声(ばせい)は、しっかり受け止めておこう。

 国王が剣を抜き、窓から飛び込んできた襲撃者を斬り伏せる。ジュンは相変わらず入口から入ってくる者達を斬り捨てる。

 気が付けば、二人は肩をすくめ、剣を収めて向かい合っていた。

「何人殺った?」

「オレは二十人」

「あ、惜しい。十九人だよ。でもさ……」

 ジュンはちらりと床に伸びる、初めに足蹴にして気絶させた男を見る。

「あいつを殺れば、同じになるよね……?」

「いやいや待て待て」

 何とも物騒な話である。

 ジュンも冗談だったようで、舌を出してから男を足で踏みにじって起こした。

「おい、クソガキ」

「ひ……ひいっ!?」

 がらりと口調の変わったジュンに怯えたらしい彼が、正座で彼女を見つめる。

「てめえの親玉はどこだ?」

「そ、そんなもん言うかよ」

 その言葉にジュンが無言で腰の剣に手をやる。見た男が叫んだ。

「し、知らねえ! 本当に知らねえんだ! 頼む、見逃してくれ!」

 ジュンは国王と顔を見合わせた。

「見逃してって言われてもねえ……どうする?」

「まあ……逃してもよいのではないか?」

 国王の言葉に、思わずジョエルは脱力し座り込む。

「望んでやったことでもないようだ。なら再犯の可能性も低いだろう。また来ても殺すだけだ」

 その言い草に、ジョエルは頭痛を覚えたのだった。

 事後処理を終えたジョエルの元に、ジュンがやってきた。

貧弱(ひんじゃく)だったねー」

 からからと笑ったジュンにジョエルは額を押さえる。

「それでもひやりとしましたよ……」

「あはは、心配してくれてたんだ。ありがとう」

 夕焼けの中、ジュンは酒をあおる。

 ジョエルは銘柄(めいがら)に目を止め、眉を潜めた。

「……カーラーの火酒?」

「そ」

 彼女の笑みが恐ろしい。

「もしかして、俺を疑う?」

 カーラーと名のつく土地は、たった一つ、クレアスチアの北の国にしかない。

 ジョエルはしばらく彼女を見つめてから、首を振った。

「……いえ」

「偉い偉い」

 とたんに、彼の頭にジュンの手が乗った。

「大丈夫、単に知り合いのいる組織がカーラーの近くにあっただけだから。送り届けたついでに買っただけだし」

 内心胸を撫で下ろしたジョエルは、ガラスのコップに酒をついでもらい、それに口をつける。

 ジュンはジョエルが顔色を変えないのを見て、低く口笛を吹いた。

「お酒、強いんだねえ」

「たしなむ程度には。あなたも相当強そうですが」

「そりゃ、これぐらいなら楽々一晩は飲み続けられるよ」

 誇張が全く入っていないと分かる口調に、思わず脱力する。

 もう突っ込む気力も残っていなかったので、ジョエルは黙々と酒を運んだ。

 夕焼けの空が暗くなっていく。

 沈黙を破ったのは、ジュンだった。


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