三、恐怖のデスゲーム開幕! でも、イケメンのムショ仲間ができましてよ。 二
しかしこれは……結婚を焦る中年に不安感をあおって、ろくに読ませもしない書類のサインを求めているようなものではないのか? 所長のあの性質……『意地悪』かつ『合理的』。つまり、鍵をたまたま拾ったから脱出できたなんていう流れを一番嫌う。もっとひねくれたやり方を用意しているはずだ。
『残り三十です。あっとそうそう、忘れてました。そこから脱出できるのは一人だけです。ごめんなさいねー』
時間の間隔がおかしい。必ずしも同じ速さで読みあげをしているのではなさそうだ。つまり、正確な計画をたてにくくなっている。
「おいっ、さっきから俺達をコケにしてるのか!」
男性が叫んだ。
「そ、そうだ! おたがいの口でジッパーをさげたら?」
女性の提案は、じつは私も思っていた。一つ問題があった。
「じゃあ、俺のをまずさげてくれよ」
「それ、そっちだけが鍵を探してでていくことにならない?」
そう。脱出できるのは一人だけ。なら、先に両手が使えるようになった人間が自分で目隠しを外してまっさきに本を調べられる。協力しあえばいいのに猜疑心のせいで先に進めない。
「そんなまねしてどうするんだ! だいいち、この先どんな仕かけがあるかわらないんだぞ!」
「でも、でられるのは一人だけっていわれたじゃない!」
『残り二十』
頭や肩に粉かなにかがかかってくるのがはっきり感じとられる。
「くそっ、もう知るか!」
足で本をかきわける音がした。鈍くともつま先の感触でどうにかしようとしているのだろう。
「そっちこそ、泣きごともらしても知らないから!」
本をかきわける音が二倍になった。
鉄格子にはなんの手がかかりもない。私も二人に加わるべきなのか。でも、なにか……なにかがちがう。
誰かが思いきり私にぶつかってきた。
「きゃあっ!」
床に投げだされるように、私は倒れた。
「邪魔だ!」
ぶつかったのは男のようだ。文句でもいいかえそうとして……あれっ? 頭になにかが触った。反射的に手を伸ばそうとして、囚人服のせいでできないのに気づいた。しかたない。芋虫のようにはって、頬でさわってたしかめるしかない。まっすぐな棒に、カーブのついた支柱かなにかが左右一対ついた品とわかった。支柱は先端が少し尖っているようだ。そうだ! 鉄格子の穴にこれを通してひっかけたら、目隠しを外すフックができる。鉄格子までは蹴って進めるとして、穴に通すには口でくわえるしかない。まさに、背に腹は代えられなかった。困難ではあるものの、鉄格子までの距離は三歩となかった。
「どれだ……鍵のある本は!」
男はまだ鉄格子の近くで本を探しているようだ。こっちの作業の邪魔になる。
「あっ、鍵だ!」
私、詐欺師だから。こいつらの人間性はおおよそわかったし。
「なに!? よこせ!」
「あたしのよ!」
私もふくめて三人とも、まだ目隠しをしたままだった。にもかかわらず、二人は私の声がした方に速やかに近づくのが歩幅で察せられた。がつっと音がして、またしても先達の二人がぶつかったのが耳で理解できた。
「鍵は俺のものだ!」
「ひっこんでなさいよ!」
ありもしない鍵をめぐって二人が取っくみあいに至ったようだ。その隙に鉄格子にたどりついた。