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十一、ようやく諸悪の根源と対決ですわ! 王子様、準備はよろしくって? 三

 心のなかで父にわびつつ、私はナイフを父の胸につきたてた。天井に顔をあげ、なにか声にならない声を張りあげながら父はぼろぼろに崩れていった。まるで、砂を固めてこしらえた人形に水をかけたように。


 二度目の死は娘である私によって実行された。あとには、一握りのチリだけが残った。


 私は一人で舞台にあがった。そして、空っぽのままの観覧席に顔をむけた。


「私達の勝ちです」


 宣言した瞬間、所長室のときよりはるかにすさまじい拍手と歓声が渦をまいた。


 これがお芝居なら、カーテンコールとしゃれこむところだろう。


 私は、父を殺したばかりのナイフをしまわなかった。反対に、自分の左腕を傷つけた。たちまち血が腕をすべるように……あるいはなめるように伝わり、舞台に落ちる。たちまち火がついた。


「な、なんのまねだ。勝負はついただろう!」


 次男の幻影が舞台にうかんだ。無視して歩き回り、血が固まりかけたら新しい傷をつけた。


「せっかく勝ったのにむざむざフイにするとは愚かなやつだ。我々のいるところは最初から完璧な防火対策がほどこしてある」


 長男の幻影も現れた。無視の一言。


「おいっ、気はたしかか!」


 ヤンブルが、どうにか口を開いた。


「皆様は無罪放免です。どうぞ、自由になさってくださいませ。私は私でそうします」

「お前ら、トピアをとめろ! また有罪にするぞ!」


 次男が焦りを露骨にだした。


 風は劇場から本館にむけて吹いている。タズキがカーテンをめくったときに木の揺れ方で知った。長男の説明は嘘ではないし、風の力が加わってもなお全焼どころか半焼にすら至らないだろう。


 場内をぐるっと一周するあいだ、サイゾ達もさることながら外にいる兵隊達も私に手をだそうとしなかった。頑丈に劇場を閉鎖しすぎて、なにかあってもすぐには出入りできなくなっている。あくまで勝手に劇場から外にでた者に対処するようにしかなってない。


 劇場の壁にまんべんなく火をつけてから、私は父だった塵を手にした。私の血を吸った塵は、ふたたび元の姿になった……私の眷属として。


 こんな形で父と接したくない。でも、父の無念はこうでもしないと晴らせない。


「おいっ、トピアの亡霊が詐欺師に使われてるじゃないか!」


 長男の幻影が、はっきりと次男をなじった。


「こ、こんなはずじゃない! 想定外だ!」

「想定外ですむか! なんとかしろ!」


 長男と次男が責任のなすりあいをするうちに、父の亡霊は宙に浮いて劇場の随所をむしばむ炎を我が身に吸い寄せた。

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