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十一、ようやく諸悪の根源と対決ですわ! 王子様、準備はよろしくって? 二

「魔法でこしらえた亡霊だが、お前達を殺すのはあくまで当人に最初から備わっているものだ。それがたまたま炎なだけで、拳や蹴りと同じものだ」


 次男の、楽しさをかくそうとしてもかくしきられない言いぐさが頭にくる。ただの詭弁だ。万に一つも私達が勝たないように理屈をつけているだけ。


「ああ……トピアからまずお父さんの手にかかってください。そうすれば、すぐ私も……」


 レメンを信頼しかけた私がバカだった。


「お前達に、一つ機会をやろう。自分達の仲間を殺せ。最後の一人になったら、そいつだけを恩赦にしてやる。どうだ? 亡霊に殺されるよりましだろう」


 次男のよびかけに、はっきりとタズキは身じろぎした。まだくすねたロープを持っているし、みんなのなかでは一番すばしっこい。小柄なぶん、ヤンブルより速いだろう。いや、そうでなくとも仲間割れなどやっている状況じゃない。


 父の亡霊は、ごくゆっくりと舞台からおりた。足はあるのに足音はしない。身体の動きにあわせて炎がゆらめくのが不気味で、レメンは私のうしろに張りついた。うっとおしいから振りはらった。軽い悲鳴をだして倒れたレメンから、私はぎりぎりで気づいたものがあった。


 正しいという保証はない。でも、やるしかない。


「サイゾ様。私へのプロポーズ、お受けしますわ」

「お、おいっ。こんなときになにいってんだ」


 ヤンブルは、私が錯乱したのかとでも思っていそうだ。


「ほ、本当に? 本当に?」

「もちろん。その節は、だましたりして申しわけございませんでした。許しをこいます」

「も、もちろん。もちろん許す」

「あんたら、ふざけてんのか!?」


 タズキが叫ぶのも当然だ。


「では、私のために血を流してくださいませ」

「お、お父上と戦うのか? よしっ」

「失礼ながら、ちがいますわ」


 私はナイフをだした。


「私だけが生きのびたらかまいませんもの」


 仰天して、私の台詞を消化しきられないサイゾの左手首に切りつけた。ざくっと手ごたえがあり、血がにじみでてくる。


「うわぁっ!」

「トピア、てめぇ裏切る気か!」

「私を傷つけたらどうなるか、皆様ご存じでしょう? タズキもロープを手放したほうがよくってよ」


 さりげなくけん制して、タズキの手をポケットからださせた。


 そうこうするうちにも、亡霊は一歩ずつ近づいてきた。サイゾの左手首からはだらだら血がしたたり続けている。本来ならもっと時間がほしかった。


 ナイフをしまい、あまりにも予想できない展開に固まったままのサイゾの左手を両手でもぎとるようにしながら頭上にかかげた。彼の血で全身が濡れていく。


 自らの炎で燃え盛る父の亡霊に、たったいま結婚を誓った相手の血を浴びた私は猛然と走った。


「ルイーゼーっ!」


 サイゾが絶叫する間もあればこそ、私は父に抱きついた。たちまち私の身体は炎に包まれ、衣服も髪も肌も焼け焦げていく……かに思えて途中でとまった。


 父の亡霊にひとかけらでも生前の意志が残っていたら、愛する娘の夫の血で炎が消せるはず。どのみち私のではむりだし、ヤンブルやタズキならよけるにきまっている。レメンは……まぁ……。


 そんなあやふやな考えでも効果はあった。炎はたしかに消えた。でも、まだ肉体めいたものが残っている。

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