十一、ようやく諸悪の根源と対決ですわ! 王子様、準備はよろしくって? 一
まばたき一回分にさえならないままに、私達は兄弟が用意した場所にあらわれた。
「なんだこりゃ……どっかのパーティー会場か?」
「公爵家の私設劇場ですわ」
説明しつつ、奇妙な懐かしさと憎しみが同時に湧いてきた。座席は外されたままで、パーティーをやるのでもないから舞台以外はがらんどうだ。劇場らしく、壁は分厚いカーテンでおおわれていて外はわからない。天井から魔法の照明がほどこされているから暗くはない。まだ夜にはなってないとは思う。
私達は舞台ではなく床のまんなかにいた。観覧席にも誰もいない。
この劇場を舞台にした、自分が企画してきたはずの偽婚約者披露パーティーは全部公爵家の手のひらの上だった。理解どころか屈辱を感じる余裕すらないまま逮捕されこうなった。
それを見物していた公爵は死んだ。私がだましていた三男のサイゾは、勘当されてまで私に寄りそっている。さらには、サイゾは身分も肉体も人格も偽っていた。結婚詐欺師も顔負けの演技力だ。同時に長男・次男兄弟の計画の一部でもあった。
「では、規則を説明しよう。こちらは名代として一名をだす。お前達は全員が束になっても一人ずつあたっても構わないが、お互い魔法はいっさいなし。血を炎にかえたり、なにかほかの用途にするのも含めてな。武器は好きに使え。どちらかが死ぬまで戦う。お前達が勝てば無罪放免、負ければ死んで終わりだ。こちらは魔法でお前達の戦いを監視している。劇場の周りはこちらの軍隊によって囲まれており、反則は即座に決闘を中止して処刑だ。嘘だと思うなら手近な窓からたしかめてみろ」
次男が、声だけで説明した。どこにも姿はない。長男にいたっては発言すらない。
「本当だ。兵隊が大勢いる」
タズキが小走りに壁までいき、カーテンの継ぎめをめくった。オレンジ色に顔が染まっている。時間帯が夕方なのも理解できた。タズキの頭ごしに、風に揺れる中庭の木々も。
「どんな相手とやるっていうんだ?」
ヤンブルの質問が、図らずも合図になった。
「トピア! あれ!」
レメンの指が伝える方向に、私だけでなくみんなが注目した。音もなく舞台に現れたのは……。
「父さん!」
火あぶりにされて死んだはずの私の父。異端を意味する白い線が斜めにはいった緑色の服をきせられ、全身から赤い炎がゆらめき続けている。そのくせ、身体がかすかに透けてむこうがわがちらちら見えた。
「ル……イーゼ……ルイー……ゼ……ゼゼゼ……」
父……と表現できるかどうか……に名前を呼ばれ、逮捕されてから初めて恐ろしさにふるえた。父はまさしく亡霊となり、長男達に操られて私にも仲間にも害意を持っている。
ここまで思いきったことをするなら、竜の血にまつわる秘密も……私がまだ知らないことまで……とうに把握しつくしていることだろう。
「あんなの、ふつうの武器じゃ歯がたたねぇぞ!」
ヤンブルが、みんなの予想をそのまま口にした。タズキがカーテンのなかにもぐりこみ、窓かなにかをゆすったり叩いたりした。びくともしないようだ。
「魔法だろ、これ! 自分らできめといて!」
タズキでなくとも同じように訴えたい。




