十、所長など中間管理職ですのよ。もっとひどいのがおでましですわ! 八
ただ、私自身はまるっきり縁がないのでもなかった。私をとりあって、男達がそれこそ決闘することもあったから。むろん、今回はまるで事情がちがう。若者の恋の鞘あてなんかとは次元が異なる。
「決闘なら、挑んだということ自体が評価される。勝っても負けても名誉は保たれる。その代わり、名代をたてられる場合とたてられない場合があって……」
「細かい条件をむこう様が指定してくるのですね」
私がしめくくった。公爵は最初の奥方と死別してからずっと独身で愛人もいない。だから、残る問題は長男と次男だけ。
「そこまでわかっているなら話が早い」
公爵とはまたちがう、かすかに聞き覚えのある声がした。二人の幻が新たに室内に浮かぶ。公爵の長男と次男だ。
「お前達をひねりつぶす兵隊くらい、こちらに残ってないとでも思っているのか。国境にはすでに軍隊を手配ずみだ。いっておくが、異形の力が少々強くとも無意味だぞ。それから、父上のときと同じ手でそちらに引きこもうとする手も使えないからな」
相かわらず筋肉質な長男が、筋肉モリモリに釘をさした。
「お前達を倒すこと自体に軍隊を使うと、それはそれで大げさすぎる。そこで、決闘というのはこちらも思案していたところだ。ただし、お前達全員に直接出場してもらう。こちらは名代をたてる」
痩せたままの次男が、目つきも鋭く淡々と説明した。
「いつどこでですか、兄上?」
「今すぐ、こちらの召喚魔法できてもらおう。それからサイゾ、公爵家長男兼暫定当主としていう。たったいまお前は勘当だ。以後は我らに対して勝手に口を利くなよ」
「バッカじゃねぇか?」
ヤンブルが、苛だちをはっきりと示した。
「お前は組合にさえ見すてられ、脱走した盗賊だな。我らにそんな口の利き方をすること自体、縛り首に値する重罪だがわかっているのか?」
「ケッ、お前らこそ父親が死ぬ前からずっとこの機会を狙っていたんだろうが。でなきゃ手まわしがよすぎるぜ」
こんなときにそこまで頭が回るとは。ヤンブルを少し見なおした。
「図にのるな。今すぐお前だけを逮捕してもいいんだぞ」
「それができねぇからこんなまだるっこしいことやってんだろ? ええ、見物人。俺達からはあんたらの姿は見えんが、親父の公爵にも内緒でこいつら兄弟と賭けをしてるんだろ? 兄弟が勝ったら次期当主の座に長男がつくのを認めるとかなんとかな。権力の亡者ってわけだ」
沈黙はすなわち肯定だった。
「世迷言もほどほどにしておけ。どちらにしろ決闘には応じるのだな?」
次男が念おしした。
「私は応じます」
「わけわかんないけど自由を約束するんならやってやるよ」
「私は……トピアと運命をともにするなら決闘だって……それもまたロマンチックかも……」
「つきあってやるけどよ。賭けと見やぶった人間、なめねぇほうがいいぜ」
「私もお受けします」
「よし。ターミナルをだすからさわれ」
長男がしきり、言葉通りの品が兄弟の幻のそばにあらわれた。
ヤンブルの推察が正しければ、十中八九罠がしかけられている。それでも、あえてのる以外になかった。打ちあわせたかのように。私達はほぼ同時にターミナルにさわった。




