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十、所長など中間管理職ですのよ。もっとひどいのがおでましですわ! 三

 だまってうなずいたレメンは、すぐに実行した。薬品の管理には必然的に書類を使わねばならない。その点、適材適所というべきか。


「ありました」


 レメンはパンフレットのような物を私達に見せた。なるほど、くだんの盤とまったく同じ品が表紙に描かれている。ただし、『囚人叩きゲーム 遊び方』と題名がついていた。


「おい……なんだこれは」


 リバーガは剣の柄に手をかけた。


「あ、あー……」

「四隅を金づちで叩くと修理サービスにつながるって書いてあります」


 レメンがあっという間に頁をめくった。


「なめやがって。外部に通報するつもりだったな」

「ま、まちがえ……」


 リバーガは所長のあごをけりあげた。がちんっと歯の鳴る音がして、所長は悲鳴もだせずに背中を丸めた。


「囚人叩きゲームってなに?」


 タズキはへんなところで好奇心を刺激されたようだ。私も気にはなる。もっとも、題名からしてろくなものじゃなさそうだ。


「この遊戯盤には十個ほど穴があります。穴には不規則に囚人が頭をだしたりひっこめたりします。一定時間内にたくさん叩けば叩くほど多くの点をえられます」


 取り扱い説明書を読みながら、レメンがなんの感情もまじえずに説明した。


「へぇ。いっそこいつらを囚人のかわりにしてやろうか?」


 ヤンブルが、所長と看守を見おろして憎しみをこめた。


「レメン様。結局それは遊ぶためだけのものですの?」

「いえ……オプションサービスで、記録保管があります」

「た、ただの得点記録だ!」


 所長の言葉は、私達の全員が反対の意味に受けとった。たぶん、看守を意識してわかりきった台詞を表にしたのだろう。


「記録保管を詳しく読んでくださいな」

「はい。……記録保管はまったく別のそれと連動させることができます。連動させたい別記録を、以下の方法で本遊戯盤での登録・閲覧・操作ができます」

「どうやらこれが妥当なやり方のようだな。レメン、操作をたのむ。俺達の血の記録があるはずだ……いや、面倒だし血の記録そのものを一括で無罪放免にしてくれ。ついでに警報もとめろ」

「わかりました」


 レメンは取り扱い説明書を左手にしつつ、金づちを右手に持った。遊戯盤を軽く何度か叩くと、レメンの目の前に帳簿の見開きめいたものが現れる。無言のままレメンは金づちを叩き続け、帳簿は消えた。警報もなくなり、室内は嘘のように静まりかえった。この間、だれもやってきてない。客観的に考えてあっという間のできごとなのもあるし、そもそも人手をしぼりすぎてもいたのだろう。


「すみました」

「じゃあ、これで俺達はシャバにもどれるってのか?」


 ヤンブルがこのうえなく目を輝かせた。


「ほ、ほかにも記録は残っているんだぞ! どのみち無意味だ!」

「この刑務所からでられりゃ、二度と捕まるようなヘマはしねぇよ。他人のことより、お前こそ自分がここにブチこまれるかもな。囚人として」


 ヤンブルの恫喝は情けようしゃなかった。


「とにかく長居は無用だ。さっさと……」

「うぐぐぐぐぐぐ……」


 リバーガをさえぎるように、所長がうめきはじめた。悪あがきで芝居でも打とうとしているのかなと思ったら、頭が少しずつふくれあがってきている。ただならぬ気配に、リバーガとヤンブルは一歩うしろにさがった。


「あ、頭が……頭がーっ! 助けてくれ! 助けてくれーっ!」


 所長の頭は元の三倍くらいにまで大きくなり、鈍くて重い音とともに内側から破裂した。脳や頭蓋骨のかけらが四方八方に飛びちり、私の服の裾にもいくつかこびりついた。


「うぇっぺっぺっ、口についた!」


 タズキは顔をしかめながら自分の口を指でぬぐった。


「クソっ、肩がずぶぬれだ」


 リバーガは、所長の血でべったり赤く染まった右肩を左手でもみしだいた。


「な、なんでまた突然……」


 ヤンブルが、膝にくいついた骨片をつまんで抜きとっている。


 きゅうに、拍手が湧きあがった。

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