十、所長など中間管理職ですのよ。もっとひどいのがおでましですわ! 二
血の記録……本人の血をもとに、あらゆる情報を管理する魔法を処理しないことにはいつまでも前科がついて回る。逆にいうと、それさえうまく書き換えたら無罪放免となる。なんでもかんでも記録につけて、徹底的な書類管理を追求するのがかえってつけめになっているのは犯罪者達の常識となっていた。
「警報はきらなくていいのかい?」
「血の記録さえなくなりゃ、俺達は囚人じゃなくなる。つまり、警報は無意味ってわけだ」
ヤンブルの説明に、タズキは納得してうなずいた。
「血の記録は、この部屋からでも操作できるはずだな?」
リバーガの表情にも言葉遣いにも、油断はひとかけらもなかった。魔法の発達による能率化や合理化が、とんだ結果をもたらしかけているのは皮肉としかいいようがない。
「こいつじゃないのか?」
タズキは右親指で執務机にある盤をさした。よく観察すると、盤の脇には小さな金づちが添えてあった。
「おいっ、どうなんだ?」
リバーガが所長を見おろした。
「無関係だ。ここからでは血の記録は操作……」
ごりっと音がして、リバーガの靴が所長の頭を踏みつけた。
「寝言はどうでもいい。もう一回だけ質問してやる。断っとくが、ふざけた答えをだしたら俺達で好きなようにこの部屋を探す」
所長を拷問しないリバーガの真意は、私にも理解できた。どうせ、おおっぴらにはできないものをためこんでいるにちがいない。それらが看守の目にさらされたら、へたな拷問などよりはるかに深刻な打撃が所長の地位を襲うだろう。
「ま、待て。いう。いうからやめろ」
「それで?」
リバーガは、足を所長かせらどけた。
「その盤だ。起動してから特定の順番で金づちを使うと血の記録の操作ができる」
「どうやって起動する?」
所長の説明に、リバーガは横目でちらっとくだんの盤に注目した。
「どこでもいいから指でつつけ」
「レメン」
リバーガは所長からあまり遠ざかることはできない。こんなときでも危険を高めることはしないのはさすがの用心深さだ。
レメンはうなずき、執務机に近づいてから盤を左人さし指で小さく触れた。とたんに、間抜けなほど清々しいファンファーレが盤から短く演奏された。
「盤は、縦横五つずつのマス目に区切られている。順番はどうでもいいから、四隅を金づちで叩け」
「待って!」
私はただならない違和感を無視できなかった。レメンはぴたっととまった。
「看守がなにもいわないのはかえっておかしいです。本当にそのやり方でいいのですか?」
「うっくっ……も、もちろんだとも」
所長は露骨に目をそらした。
「レメン、机の引きだしをあけて中身を調べろ。取り扱い説明書かなにかがあるかもしれん」
リバーガは看守をずっと見張っている。




