十、所長など中間管理職ですのよ。もっとひどいのがおでましですわ! 一
リバーガがいったとおり、角ばった小さな部屋だった。ドアが二枚あるほかはなにもない。そのうちの一つには四角い窓がついていて、これが部屋にきて最初に見えたものなのは察しがついた。
窓のある方のドアは閉じられていなかった。戸口から、荷車を引くロバの壁かけがちらっと姿を覗かせている。いちいち踏みこむ必要はないだろう。
「とっとと進むぜ」
「や、やめろ! はなせ! このままだととりかえしがつかなくなるんだぞ!」
「ごたくは俺達が自由の身になってからだ。どうでもいいけどクソ重いな」
ヤンブルが、所長をひきずるようにして転移ターミナルにふれた。
「こっちもだ」
「リバーガ、この規則違反の罰則は……」
ゴツッ! 節くれだったげんこつが看守のこめかみに叩きこまれた。人造人間であろうとなかろうと、はた目にも耐えられそうにない。ぐったりした看守とともに、ヤンブル達のあとを追った。
「レメン様、タズキ様! 私達もいきましょう」
呼びかけつつ、一抹の不安が胸をよぎった。簡単すぎる。これならインチキ回復師の方がまだしも手ごわかった。
「はいっ! 今度は百人分くらいの致死量に……」
「とっとと進め! あらいやだ、ごめんあそばせ」
「ああ……こんなときに痛いっ!」
タズキがレメンの尻をけとばした。はずみでレメンは転移ターミナルにさわり、タズキもすぐに続いた。
『時間です。全参加者の失格を……』
不安を解消するにはためらっていられない。物知りお姉さんが語りはじめたときには、私の姿も消えてしまっていた。
収監されてから、まだ一日とたってないはずだ。なのに、何年もすぎた気がする。
看守につきそわれ、所長から規則の説明を受けた部屋にもどってきた。リバーガ達も待っていてくれた。
最初きたときは、所長室らしく整理整頓された威厳を感じはした。いまや、それは台なしになっている。拘束されたままの所長や看守もそうだが、なにより執務机のうえに置かれた奇妙な盤が目をひいた。以前は影も形もなかった代物だ。
『囚人の反乱および所長と看守の拘禁を確認しました。全職員はただちに、非常時解決策定計画にのっとって行動してください。繰り返します。囚人の反乱および所長と看守の拘禁を確認しました。全職員はただちに、非常時解決策定計画にのっとって行動してください』
警報とともに、物知りお姉さんとはまた別の、知的で冷静な女性の声がした。
「まずはこいつらを縛ってくれ。本人のベルトでもつかうといいだろう」
リバーガは、あいかわらず看守をおさえこんだままだった。ヤンブルも所長を身動きとれないようにしている。
所長達からすれば、ドアの外に警護でもいればまだしも頼みの綱になっただろう。最初きたときに、そんな役目の人間はいないと知っている。そもそもこんな形で囚人が乱入することなど想像できるはずがない。
「あたし、ロープもってる」
どうして……とタズキに質問しかけてやめた。もともとタズキは職員側に近い立場だった。なにかの機会にシャバでの特技を活かしてもおかしくない。
タズキがだしたロープを、私はナイフで四つに切りわけた。所長と看守の両手両足を、タズキとともに縛っていく。
「お前ら、床に座れ。早くしろ!」
リバーガの命令に逆らう力は、所長達には残ってなかった。
「レメン様、ヤンブル様。本棚で戸口をふさぎましょう」
「承知!」
「はい」
私の呼びかけに、二人はすぐさま応じた。
「ふー、これでよし。じゃ、とっとと血の記録を始末するか」
大仕事を控えつつも、ヤンブルは左手で自分の首筋をもみほぐしてから両肩を回した。




