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九、おしまいにはカルト宗教ですの? まぁ。芸のないお話ですこと。 三

 レメンが私にご執心なのもさることながら、タズキはリバーガともヤンブルとも果てしなくくっつきそうにない。どう想像したところで私達のなかからカップルができるとは思えない。


「放火魔にいわれたくないです」

「放火は一回だけだ! あとは置きびきやってたんだよ!」


 この二人、いつまでも刑務所にいてほしい。


 いや、待った。放火……。放火……。


「ヤンブル様! あのロゴマークの裏になにかあるのか、調べていただけませんこと?」


 演壇の背後の壁に刻まれた、荷車を引くロバはどう考えても教会の雰囲気から浮いている。ならば、モチはモチ屋だ。元盗賊ならそうした仕かけにくわしいだろう。


「お安い御用だぜ!」


 不毛な可能性から解放され、ヤンブルは生きかえったようにすばやく目あてに取りついた。指でロゴマークをあちこちつついたり、耳をあてたりするのを私達はじっと見守った。タズキでさえだまっていた。


「どうやら空洞かなにかがあるな。むくの壁じゃねぇ」


 壁にむかったまま、ヤンブルは教えてくれた。


「ありがとうございます」 


 それだけわかれば十分。


「お疲れ様でした。さがっていてくださいませ」


 ヤンブルといれかわってから、私はナイフをだした。自分の左腕を軽く傷つけ、つけた血で刃に炎をまとわせるとロゴマークに切りつけた。思ったよりも軽く薄い感触に、自分の行為の正しさを確信した。


「えっ!? それは……」


 レメンがなにかいいかけるのを無視して、ひたすらロゴマークを攻撃し続ける。


 ルール二。食事、備品、施設などを無意味に、または脱走のために損壊してはならない。へー、そう。これは無意味じゃない。脱走のためでもない。だから違反にならない。


 ずたずたになったロゴマークがついに崩れ落ちた。ヤンブルの調べたとおり、新たな通路がさらされる。教会からトンネルのように続いていた。


『残り八』


「急ぎましょう、皆さん」


 ナイフをしまい、私はすたすた歩き始めた。あわててあとを追う足音が耳に届く。


 通路は暗くもなければ長くもなかった。パイプオルガンの音色が一段大きくなるさなか、一枚のドアで終わっている。ドアそのものはごく平凡な品だ。


「よくぞここまでこられました。さあ、開けなさい」


 ドアのむこうから、流れるように求める男性の声がした。声音からして若くはなさそうだが、どこかで聞き覚えがある。相手に対して優位にいるのを自覚したうえでの、荘重な偽善。いうまでもなく、できれば近よりたくない。もっとも、記憶どおりの人間ならもう迷う必要はない。確証がつくまでの間、名前がないと呼び辛いから仮に演説家としておこう。


 私はノブを回した。室内は打ってかわって暗闇一色。唯一、人の顔くらいの四角い明かりが正面にある。かまわず入室した。


「全員入ったのならドアをしめるように」


 演説家は指示をつづけた。だれが私達の末尾なのかはまでは把握していないけど、とにかくやってきたドアは閉じられた。


「いてっ!」


 ヤンブルがどこかにぶつかったようだ。


「丸みがひとかけらもない部屋だな」

「ド、ドアが開かなくなったよ」


 リバーガにかぶせるように、タズキの焦りが伝わってきた。


「心配いりません」

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