九、おしまいにはカルト宗教ですの? まぁ。芸のないお話ですこと。 二
ああ、忘れていた。小柄なぶん軽いから、私でも抱えつづけられた。
「ごめんあそばせ」
「あんた、よくもあたしをぶったな!」
タズキの希望とおりにすると、思いきり右足を踏まれた。
「いたぁいっ!」
「へっ、ざまぁ~」
「お前らいい加減にしろ。ここをでないとシャバにもどられないんだぞ」
うまいタイミングでリバーガがなだめてくれた。足はまだうずくものの、喧嘩している場合じゃない……と、頭に浮かんできた考えに困惑させられた。
レメンやタズキをつれていくことにしたのは、損得勘定からだ。もちろん、態度にだして幻滅させるような真似はしない。同時に、冷めた気持ちを保ってもいた。結婚詐欺師として相手をその気にさせつついつでも切りすてられる感覚を抱えるのは得意技というものだし、獲物に対してだけ発揮するものではない。
それなのに、タズキが自分の気持ちを臆面なく叩きつけてきたり、リバーガが本気でなだめたりするのに接していると本当に仲間になったような錯覚が湧いてくる。
いやいやいや。私以外の囚人は、自由の身になったらおしまい。私だけは打倒公爵という旗がある。優劣云々ではなく、はなから目的意識がかみあわない。
「私の理想の相手……それは……」
レメンが私にすり寄ってきた。あ、こういう旗はいらないから。そのケはないし。
「女同士じゃ子孫繁栄できねーぜ」
ヤンブルが露骨な発言をして、レメンは顔をしかめつつも動きをとめた。彼のこういうところが、図らずも仲間意識を遠ざけて冷静さを思いださせてくれる。感謝は一切しないけど。
「子孫繁栄だけが愛の形じゃないでしょう?」
レメンの印象からして、ここまではっきりいいきるのは少し意外だった。
「そりゃあまったくその通りだけどよ……」
「問題は、誰が誰を選ぶかだな」
リバーガがいうと、わかりきった話でも重みがある。
「あたしはみんなイヤ!」
「なら、とりあえず残った私達は相手ができますわね。少なくとも物理的には」
思春期の少女めいた台詞をわめくタズキにやんわりと指摘すると、すぐ口を閉じた。
「理想の相手とかいってたけどよ、ただの形式だろ? まさかこの場で……」
ヤンブルが泣き笑いに近い表情をみせた。
「子孫繁栄しろなどとやりかねんぞ」
リバーガはずっと顔をしかめて腕を組んでいる。私だって腹の底から願いさげだ。
『残り九』
「おいおい、場末の乱交パーティーかよ」
「そんなことをくどくど心配しても無意味ですわ」
たまりかねて私は口をはさんだ。
「私も、そんなめちゃくちゃな演出はお断りです。ああ……オークの薬品棚でえられたこの薬。眠りながら昇天できます。まずは私の衣服の裾をほぐして糸を作ります。そして、私とあなたの血で赤く染めてからたがいの小指を結びつ」
「うるさい! このヤンデレ毒物オタク!」
レメンが珍しくまっとうな意見を口にしてきたかと思ったら。タズキは誰にたいしても容赦ない。




