八、ここのカウンセリングなんてアテになりませんわ! 私、とうに自分の気持ちを把握しつつありますの。 八
「オーゲン商会は、そもそもトローク公爵の御用商人だ。で、公爵は領民を規則で縛りつけるのが大好きなろくでなしだよ」
「はい」
私でなくとも、たとえばヤンブルあたりでも知っている。
「問題は、公爵が最近になって極端にやり方を厳しくしたってことだ。これまでは、たんに領地の規則を破った人間になんらかの罰を与えるだけだった。それを、階層によってはもっと特別な手だてを使うことになった」
「特別な手だて……?」
「貧民だよ。どうせ大した生産性はないが、さりとて意味もなく殺すわけにもいかないだろう? だから、役にたちそうなのとそうでないのとを仕わけする。その試作施設がここってわけだ」
「じゃあ、この刑務所で生き残ったら……」
「ああ、魔法なり薬物なりで言いなりにさせるようにして私兵にでもするんだろう」
「でも、それだと……たった今、私達がその機会をだめにしたのではありませんこと?」
「そこが俺にも引っかかっているんだ。回りくどすぎる。さっさと薬漬けにでもすればよかっただろうに」
「ひょっとしたら、もっと大きな目的があるのかもしれませんわね」
「そうだな」
リバーガの流れるようななめらかな説明に、いつのまにか私は聞きいっていた。たしかに、それは無意識に父に求めていた知的な成長の要素だったかもしれない。でも、私はもうとっくに大人だ。あー……少なくとも年齢は。リバーガの姿に、父への要求とはまったく別なものを感じつつあるのは自覚しつつあった。インチキ回復師もケガの功名か。
「このインチキ回復師がーっ!」
まとまりかかった結論が、タズキの罵声でふきとんでしまった。小柄な彼女が憎しみで膨れあがり、とっくに息絶えた処刑人の顔を蹴ったり踏みつけたりしている。それまでの人生からして、回復師にうらみでもあるのだろうか。それこそ落ちついて聞きだす余裕はない。
「いいかげんにしろ、タズキ」
「うるせぇっ、あたしの心を好きたい放題にいじりやがって!」
「トピア、終わりました」
レメンが予想もつかないほどはつらつとした表情になっている。お気に入りの毒薬でも探しあてたのだろう。
「もう限界だぜ! 一ぬけ!」
ヤンブルがターミナルに触れた。
「私も!」
ついでレメン。
「早くしろ!」
リバーガも。
「あんたもさっさといきなよ。あたしはぎりぎりまでこいつを……」
私は黙ってタズキに近づいた。彼女の頬を一発ぶってから、身体を抱えてターミナルに触れた。




