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八、ここのカウンセリングなんてアテになりませんわ! 私、とうに自分の気持ちを把握しつつありますの。 六

 ヤンブルが自分の腕をつきつけると、回復師はあとずさった。


「計画? なんだそりゃ」

「あー、いや、皆さんがまっとうな人格を手にする計画ですよ」

「俺達を洗脳して奴隷にする計画だろ」


 リバーガがずばりいいきると、回復師は腰をぬかしてへたりこんだ。


「つまり、あんたは刑務所に雇われたケチなインチキ回復師ってわけね」


 タズキが断定すると、回復師から漂う臭いはますますひどくなった。ヘドロとゲロがいっしょくたになったようなもので、胸が悪くなってくる。吐き気が我慢できる限界になったとき、私は目をさました。


「なんということだ! 私の計画が!」


 回復師は頭を抱え、床にしゃがみこんでわめいている。私は硬くて粗末なベッドに横になっていた。最初に通された部屋は影も形もなく、様々な動物の内臓が標本になったガラスビンや得体の知れない薬品を収めた戸棚が壁を埋めている。天井から魔法の明かりが室内を照らしてはいるものの、暗緑色で毒々しい色合いだった。窓もなく、じとじとした空気に満ちている。悪臭だけは夢から引き継いでいて、皮肉にも状況の理解に一役かった。私は……隣のベッドにいるリバーガ達ともども……なにか病的な実験だか施術だかの材料にされかかっていた。


 すぐにベッドからでて、リバーガを揺すった。


「う……うううーっ」

「早く起きてくださいませ」

「くそ……ここは……どこだ……」

「説明している暇は……」

『残り一』


 マヒしかかっていた鼻が、急に濃くなった悪臭を察知した。あわてて上半身をひねる間もあればこそ、メスを握った回復師が私の背中につきたてようとしているところだった。どうにか急所はかわしたものの、それた刃が左脇腹をかすった。


「あちっ!」


 返り血から指先に火が移り、回復師の手からメスが落ちた。傷口からしたたる血を手ですくいとり、つぶてさながらに投げつけると回復師の頭にあたった。


「ぎゃああーっ!」


 頭が燃え始め、髪が溶けながらちりちり縮んでいくと同時に小さく短い角があらわになる。頭を手でかきむしって火を消そうとするうちにマスクが外れ、分厚い下唇からのびる二本の太い牙がはっきり見えた。


「けっ、やっぱりオークじゃないか!」


 リバーガはベッドからでて、床に落ちたメスを拾った。間髪を入れず、頭の火事ですっかり冷静さを失ったオークに近よって喉を横一線にかき切った。赤黒い血がふきでてリバーガの顔にかかったかと思ったら、オークはがくっと膝を折って地面に倒れた。あとは、手足がいくばくかけいれんしておしまい。


 いや、完全には終わってない。これまでと同じように、オークの死体は泡に包まれた。死体は死体でも人間の死体になった。白く小さな花を編んでこしらえた冠をかぶり、ひだ襟のついた上着は赤と緑の切れこみがたがいちがいに縦に入っている。肩口は丸く膨らんでいた。太ももまでのズボンも上着と同じしたてで、白い靴下が膝までのびている。

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