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七、結婚詐欺師に賭博の駆けひきなんて、十年早いんじゃなくて? 五

 もっとも、やられたのは私だけでヤンブルもリバーガもなんともない。魔法なのは当然として、レメンやタズキの力とは思えない。


「おいっ、お前らトピアになにをした!」


 リバーガが、いまにも斬りかかりそうな剣幕でレメンとタズキに一歩迫った。


「なにって、罰則です」

「なんだと? 負けても……」

「負けた人間はなにもありません。でも、参加してない人間がどうなるかは別です」


 うかつだった。詐欺師の私がこんなみえのすいた理屈にひっかかるなんて。


「俺達をだましたな!」

「いいえ。ヤンブルさんはなんともなってないでしょう?」


 なおも納得しないリバーガに、レメンはあくまで冷静に指摘した。たしかにヤンブルはなにも異常ない。


「どうして俺にはなにもないんだ」

「同じ見学者でも、トピアさんほど手強くないからです」

「ふざけるな! なめるのも……」

「リバーガ様……次の勝負……お願い……します」


 どうにか頼めた。リバーガの怒りは少しだけ収まったものの、まっとうに賭けができる精神状態とはとても思えない。レメン達もそれが狙いだろう。


 あえて彼女達の目論見にのる。イカサマをした気配がなかったとはいえ、ヤンブルの勝敗はかすかな違和感があった。リバーガでいま一度『追試』すれば確信がもてる。


「姐さん、血が炎になるんだろ? だったら……」

「自分には……その熱は効かないのです……時間が無駄になりますから……リバーガ様……」

『残り十』


「くそっ。どけっ」


 リバーガはヤンブルを払いのけんばかりに追いだし、レメンの前に座った。


「ヤンブルさんに輪をかけてきて欲しくない方ですね」

「うるせえ!」


 感情をむきだしにするリバーガと、自分の両腕で自分の胴体を抱えるしかない私をヤンブルはかわるがわる心配そうに見つめた。


「ヤンブル様……レメン様達を……よく見張っていてください……ませ」

「お、おうっ」

「では、二人目ですね」


 レメンはヤンブルとの一戦で使ったカードをすべてひっこめ、箱に入れてテーブルの片すみに置いた。また新しい箱をテーブルの下からだして、封を破った。


 二人とも、そこから先は一言も口にしないでカードを手にした。リバーガの手札は九が三枚に十と十一。同じ数が三枚そろうのは、二双の一つうえになる。役の名も『三枚』。そのまま。


 配られたカードだけでも、確率を無視するならすべての役ができうる。でも、現実的には『三枚』辺りが限界だ。


「二枚」


 リバーガは、九を二枚捨てた。九を二枚!? 『三枚』そのものを!?


 さすがの私も仰天したけれど、決断は決断だった。レメンは機械的に交換を実行した。


 リバーガが新たにえたカードは十二と十三。九から十三までの『順目』だ。『三枚』よりさらに一つ強い。


「私は一枚です」


 レメンは四を一枚捨て、山札から一枚手にした。


「では、カードを開きましょう」

「順目」


 リバーガはカードを提示した。


「三枚」


 レメンは一が三枚に五と六が一枚ずつ。


「やった! 仇を討ったぜ!」


 ヤンブルが陽気に跳ねあがった。


 危ないところだった。リバーガが三枚にこだわっていたら、どう組みあわさっても負けていただろう。怒り狂っているように思えてかなりな勝負強さだ。


「次だ」


 さっさとリバーガはカードの席をでて、ルーレットのそれについた。


『残り七』

「次どころかこれが最後になったりしてね」


 まくしたてるタズキを、リバーガは完全に無視してルーレット台に息をふきかけた。


「ちょっと、なんのつもりだよ」

「いや、あんたの指の模様が浮きでてくるんじゃないかと思ってな」

「はぁっ!? それがどうしたの?」

「汚ねえ指だから、シャツの袖でふきとってやるよ」

「あんった、あたしをコケにしてるの?」

「ぐだぐだうるせえな。時間がもったいないだろ」


 にもかかわらず、リバーガは落ちつきはらっていた。


「何回?」

「三回だ」


 露骨に顔をしかめながら、タズキはルーレットを回した。さすがに、玉を滑らせる手つきまでは乱れてない。


「奇数」


 リバーガは、ヤンブルとほぼ同じタイミングできめた。


 玉は十一に落ちた。まずは一勝。


「次だ」


 リバーガに急かされ、タズキは二投目を始めた。

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