七、結婚詐欺師に賭博の駆けひきなんて、十年早いんじゃなくて? 三
もっとも、一番あてにならない可能性だった。
「だからって……」
「まあまあ。姐さんがたってというんだし、どのみち一長一短なんだし。俺が一番槍でどうよ?」
誰が姐さんだといいたくなるのを我慢して、私はにこにこしながらうなずいた。
「ふん。ならいってこい」
「へへっ。そうこなくっちゃ」
ヤンブルは私に軽く手を振り、レメン達に身体をむけた。
「どっちの台から先でもいいのかい?」
「そうだよ、さっさときめな」
タズキが面倒げに答えた。ヤンブルはためらいなくタズキの正面……ルーレットを選んだ。この段階で、時間は二十三になっていた。
「偶数・奇数だったよな」
「ああ。どっちにするか口でいえばいい。それとは別に一回勝負か三回勝負か、選びなよ。三回勝負ならあんたが二回勝てばいい」
「どうする、姐さん」
「三回勝負でお願いいたします」
だから姐さんじゃないっての!
「じゃあ三回」
「よし。で、一回目だ。断っとくが、ゼロとゼロゼロは自動的にこっちの勝ちになる」
ゼロは偶数だが、ゼロゼロとあわせてルーレットでは特別な扱いになる。これはどの賭博場でも変わらない。
「ああ、知ってるよ」
「なら始めるからな」
タズキは椅子からたち、自分の手でルーレットの軸をつとめるミニチュアの女神像を指でつまんで回した。たちまち勢いをつけて動きだした数字盤を前にして、タズキは玉を投入してから手元にある銀色の押しボタン式ベルを鳴らした。
「賭けろ」
もう一回ベルが鳴るまでなら、いつ賭けてもいい。
「偶数だ」
ある程度玉の速さが落ちてから、ヤンブルははっきり述べた。玉は六と記されたくぼみに落ちた。
「へっ、まず一勝だな」
「一回勝負ならこれですんだんじゃないのかい?」
短い舌戦を交え、タズキは玉を拾った。
「なら、二回戦だ」
まったく同じように始まった。
「偶数」
玉は十八に入った。
「へへへっ。チョロい勝負だったぜ」
「ヤンブル、あまり浮かれるなよ」
すかさずリバーガがたしなめた。
『残り二十一』
「わかってるって。お次はカードだ」
あまりわかってなさそうな顔だった。
「ようこそ……あまり好みの人ではありませんけど歓迎します」
「おいおい、でだしからご挨拶だな。ま、ちゃっちゃと始めようぜ」
「はい。お断りしますが、こちらは一回勝負です。役の強弱は数字のみ、同じ役で同じ数字ならこちらが勝ちます。道化は一枚だけ使います。カードの交換は一回だけで、一度に何枚かえてもいいです。捨て札は相手にわかるようにせねばなりません。理解しましたか?」
「なら、たとえば『閃光』はなしだな?」
カードにはそもそも、一枚ごとに一から十三までの数字とともに矢印・心・ひし形・三つ葉の四つの模様のどれかがある。つまり全部で十三かける四……五十二枚。別個に道化が二枚ある。道化は使っても使わなくてもいい。蛇足ながら、十一は騎士、十二は女王、十三は王が描かれるので絵札ともいう。
『閃光』は数字に関係なくどれか一種類の模様が五枚そろったときに成立する役だ。役としてはほどほどに強い。




