二、ここがウワサの片道切符!? とりあえず身体検査ですわ。 一
罪からすれば妥当なところなのだろうか。貴族相手の結婚詐欺。それも、毒まで含んだものとあっては、一方的な裁判になるのは当たり前だった。しかし、死刑はおろか鞭打ちにすらならなかった。牢屋に勾留はされたものの、拷問も取り調べもない。だから、公爵暗殺計画までは白状せずにすんだ。まさに悪運だ。
悪運といえば、食事も三度なら日に一度のシャワーも与えられた。ただのかっぱらいでさえ、捕まれば指のニ、三本も金槌で叩きつぶされるのに。さすがに白黒縦じまの囚人服は週に一回しか変えられないし髪も短く切られはした。それらをさしひいても信じられない厚遇だ。
ほんの少しは、心当たりがある。
サイゾに盛ろうとした毒は、永遠に続くものではない。ほどほどに腕のいい回復師や僧侶がいれば簡単に治る。要は私と子孫繁栄できなければいいだけだから。それに、私をへたに絞めあげると別な意味で余計な秘密をしゃべる可能性もある。結婚詐欺を通じて、私に熱をあげるあまり大事な悩みや政治的に微妙な問題をしゃべる若者も少なくなかった。サイゾもまた、二人の兄達や父に対する劣等感をたっぷりと語っていた。
判決がでてすぐ、二人の衛兵につき添われて裁判所の裏口から粗末な馬車に乗せられた。いうまでもなく両手を縛られ、腰縄つきのままで。客車は密閉式で、内側からはドアは開かない。長細くて硬い椅子のまんなかに私が座り、両隣につき添いの衛兵が座った。
どのくらい時間がたったろう。身体の前にでるように両手を縛られているため、座りにくくて困ることはない。そのせいか眠気がじわじわ高まってうつらうつらしかけたとき、ようやく馬車が止まった。ドアが開かれ、まず一人目の衛兵がでる。それから私、ついで二人目の衛兵が馬車からでた。両脇をしっかり固められ、身じろぎ一つできない。
裁判は午前中におこなわれていて、いまは夜中。私が捕まったパーティーから季節は進み、春になっていた。とはいえ夜は肌寒い。
目の前にある建物は、寒いどころの騒ぎじゃない。ちょっとした要塞だ。上から下まで、一個一個が私くらいの高さを備えた石を積んでこしらえてある。壁には細長い窓が等間隔にもうけてあり、人差し指が入るくらいの隙間しかない。もちろん、牢屋は牢屋で脱獄や秘密の差し入れなど考えられないようになっているのだろう。
馬車は、刑務所と塀に挟まれた中庭に停まっている。御者をしていた衛兵が、刑務所を背にしてたつ三人の別な衛兵……看守なのは一目瞭然だ……となにか書類の確認や交換をした。それから私は、なかば押しだされるようにして歩かされた。三人いる看守のうちの二人が、馬車からずっと同じだった衛兵と間髪を入れず交代して私の身柄を確保した。
引き継ぎが終わり、衛兵達は互いに敬礼して別れた。私と身体を接してない看守が先導し、刑務所の正門……鉄枠で補強した、両開きの巨大な門……に描かれた黄色い鐘を手でなぞった。本当に鐘の鳴る音が響き、重々しくきしみながら正門が開いた。馬車が遠ざかる音とともに。
てっきりそのまま牢屋いきかと思っていたら、違った。
まっさきに連れていかれたのは、壁からつきでた『医務室』という札の下にあるドアだった。看守がドアを開けると、アルコールや薬草の香りがした。
「そのまま進め」
看守の命令どおりにすると、うしろでドアが閉まった。