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六、白馬の騎士様と遊園地デートですのよ! インチキでございますけど! 二

 着ぐるみは別に気にした風でもなく、姿勢をもどすと風船の一つを右手に持ちかえて私に近づけた。風船は赤色をしていた。


「用心しろ」

「はい。でも、頂きます」


 まさか、いきなり爆発して即死などとはいかないだろう。 軽くお辞儀して受けとった。


「とくにかわったことはございません」


 風船の紐を軽く引っ張って、ありのままを伝えた。


 着ぐるみは、リバーガに青い風船を勧めた。用心しつつ彼ももらった。ヤンブルは黄色のを。


 風船がいきわたると、着ぐるみは腰を軽く曲げた。次いで両手を同じ方角に伸ばし、どこかを示した。


「案内するとでもいいたいのか?」


 風船を持つリバーガは、それまでのいかつい印象からすれば落差が激しい。ついふきだしそうになる。本人はいつもとかわらずに質問したつもりだった。


 着ぐるみは大きくうなずき、まっさきに歩き始めた。さっきからペースに巻きこまれている気がする。一方で、ついていけばなにかしら得られるものがあるとも想像できた。


 ためらいつつも私はついていった。リバーガ達も同じように歩きだした。


 これが本当に遊びにきた話だったら、どれだけ楽しかったことだろう。そんなことを考えてもしかたないのだけれど、思いかえせば復讐の一念で結婚詐欺に明けくれていた。婚約者とデートすることもあったものの、『仕事』だったしどのみちこうした場所は選ばれない。お芝居とか朗読会とか。絵や彫刻の展覧会とか。もちろん、お金持ちが通うような。


「おい、トピア。あんまりきょろきょろするなよ」

「え? あ、あら、ごめんあそばせ」


 いつの間にか、リバーガが私の隣で歩幅を合わせていた。


 やがて、私達は一軒のお店までやってきた。二階建ての木造で、全体的に丸みを帯びた建物だった。正面には『金色のやかん』と屋号を記した横書きの看板がドアのうえに据えてある。


 着ぐるみがドアをあけると、鈴の音がかわいらしく鳴った。珍しくもリバーガが苦笑した。


 着ぐるみに促されるままに、私達は店内に進んだ。


 四角い窓からさしこむ光と、丸いテーブルごとにともるろうそくだけが頼りの薄暗い店内は人がいないように思えた。


「こんにちは」


 若い女性の少し低い声が奥から寄せられ、ぎょっとした。背後では着ぐるみがドアを閉めた。


 声のした方をよく確かめると、一人の女性がたっている。背は私より低く、身なりは質素だがよそいき風ではあった。そして、灰色の髪を短く整えている。


「こんにちは。ご機嫌いかが?」


 とりあえず、私は挨拶を返した。


「麗しいです。さあ、こちらへどうぞ」


 どうぞといわれても素直に喜べない。他に客はいないし、あからさまに怪しすぎる。

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