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六、白馬の騎士様と遊園地デートですのよ! インチキでございますけど! 一

 ターミナルを使うと、円柱形の小さな部屋にでた。天井から吊るされた小さなランプと壁に囲まれた空間があるほかは、ドアが一枚あるきり。


 それを開けると、めくるめく大小無数の輝きが目を奪った。青、赤、黄、緑、橙……。


「なんだこりゃ? お次は遊園地かよ」


 ヤンブルの台詞を待つまでもない。ひっきりなしに動く巨大なコーヒーカップ、回転木馬に絶叫ガレー船。三日月が浮かぶ夜空には『オーゲン遊園地』という赤い字幕まで浮かんでいる。それらことごとくに荷車を引くロバのロゴマークを添えて。


『地下四階へようこそ! 皆さん、ちょうどまんなかまでこられましたね。ここらで一息つけて、たまには羽根をのばしてはいかがでしょうか? でも、遊びすぎはよくないですからね。あと、この階から先はなるべく死体も目につかないようになっています。さすがに皆さん、自己責任脱落者は見飽きたでしょう? さあ、時間は五十です』


 どうせろくな演出じゃないにきまっている。


 ともかく、路上のあちこちに光る石が埋めこんであり、夜中……じゃなかった、屋内でも明るさは十分だった。そのくせ人の姿はさっぱり見当たらない。草原や洞窟はまだしも、ますます異常だ。階があがるごとに異常さが強くなってきている。


 夜空の字幕は、ここからはっきりわかるからには相当な大きさだろう。もちろん、アトラクションも含めて全部魔法に決まっている。


「遊んでいる暇はありません。守護者をはっきりさせねばなりませんわ」


 あえて当たり前な台詞を口にしたのは、私自身が懐かしさに心をひたらせてしまいそうになったから。


 親子三人で遊園地にいった思いでが、一つだけある。色とりどりのソフトクリーム……お化け屋敷……人形劇……。とぎれとぎれにしか覚えてない。


「その通りだ。あと、飲み物や食い物も軽々しく手がだせん」


 リバーガはあくまで禁欲主義だ。もともとここは刑務所なんだから当たり前か。


「えーっ!? せっかくビールくらいにはありつけると思ったのに」


 ヤンブルの快楽主義は、ある意味うらやましい。


 などと喋っているうちに、むこうから一人やってきた。明らかに着ぐるみとわかる格好で、ロバをかわいらしく擬人化したキャラクターに扮している。着ぐるみは薄黄色のシャツにサスペンダーつきの緑色をしたズボンという姿で、ご丁寧にも紐をつけた三個の風船を左手に持っていた。風船はいずれも宙にふわふわ浮いている。


 着ぐるみは、こちらに近づきながら左手を振ってみせた。好意を明らかにしているようだ。ふつうなら笑って手を振りかえす。ここはふつうじゃない。だから、私達の誰もが反応しなかった。さりとて完全には無視しない。相手の出かたをうかがっている。


 ロバの着ぐるみは、私達の目の前までくると大げさに宮廷風のお辞儀をした。思わず返礼したくなり、気を引きしめた。


 結局、私達の誰もがただ眺めているままだった。

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