五、炎上テーブルマナーは虫にでもお食わせ遊ばせ! 八
ということは、バッタの群れが守護者だったのか。
三度も続けば嫌でもわかる。守護者はすべて、私の一家を破滅させた連中だ。まさに八つ裂きにしても飽きたらない。むしろ奴らこそ犯罪者だろう。
なら、一つ一つ仇を討てて喜ばしい? とんでもない。なんとも重苦しい、泥水のように濁った気持ちが湧いてくる。他人に強要される仇討ちほどばかばかしいものはないだろう。結果として自由の身に近づいているにせよ……いや、なおさら割りきれない。所長かどうかは別として、誰かの手駒になった気分だ。
「この小屋には……トピアとタズキしかいないはずだったな?」
「あ、あたしは知らない! 知らないよ!」
タズキでなくとも知らない。リバーガもヤンブルも、小屋には一度入っている。これだけ転がっていたら嫌でも気づく。
「リバーガ……この刑務所、迂闊な振るまいができませんわ。タズキ様は殺さない代わりに、ここに放っておきませんこと?」
私の主張は、リバーガにも妥協できた。剣を収めると、彼は燕尾服姿の使用人からベルトを一本とった。自分のは、タズキを縛るのに用いたままだ。タズキも、これ以上の要求は自分のためにならないと悟ったらしい。口を閉じていた。
「それにしても、身なりからすりゃあどっかの金持ちに雇われてたんだろうが……どうしてこんな場所にきたんだ? いつの間にやってきたんだ?」
ヤンブルがあごを右手でさすっている。
「さあ……それこそ所長のご趣味かも知れませんわ」
「お前はどうなんだ? 血が炎になるなんて聞いたことがない」
リバーガが不意に尋ねて、私は表情が強ばらないように全力で意識した。タズキが知らないなら私しか知らない。そう考えるのは当たり前だし、あんな力を持つならなおさらだ。ただ、ヤンブルは一方的に私に仲間意識を持っているし、リバーガは契約がある。だからなあなあですむかなと踏んでいた。少々甘かった。
「実は……ごめんなさい、今まで黙っていて。私、所長に改造されたのです」
「カイゾウ!?」
リバーガとヤンブルの仰天は、多分、二人で別々な想像をしているのだろう。どうせ嘘なんだからご勝手にしろ。
「所長は邪悪な魔法実験が大好きなのです。それで、私に変な儀式をほどこして、自分の成果をたしかめているのですわ。変ないたずらはされていませんから念のため」
何故か目を輝かせたヤンブルに、私はしっかりと釘をさした。
「なるほど。なら、こいつらもまた実験とやらの犠牲者である可能性が高いな」
リバーガは、召し使い達の死体をざっと見渡した。
「でも、具体的にどんな実験なんだ?」
ヤンブルはしつこく食いさがった。
「さあ。地上階へいけばはっきりするんじゃありませんこと?」
「そうだな。俺も所長には聞きたいことがある」
「右に同じ」
リバーガが、結果としてうまい具合にまとめた。ヤンブルもそれに乗った。




