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五、炎上テーブルマナーは虫にでもお食わせ遊ばせ! 七

 たっていられなくなり、うしろへ倒れてしまう。そのはずみで首をしめていた人間を巻きこんだ。つまり、図らずも背中から体当たりする形になった。ある程度同じくらいの体格なら、そんなことはできない。結果としてできたということは、つまり私よりはかなり控えめな大きさということになる。


 ゴキッと鈍い音がして、背中越しに誰かを下じきにした感触がきた。ようやく首も解放された。


 激しく息をつきながらたちあがって振りかえり、見おろした先にあったのは気絶したタズキだった。もちろん、私の首をしめたのは彼女だ。


 タズキが意識を回復する前に、私は大急ぎで小屋のドアを開けた。すぐ近くで待っていたリバーガ達を呼び、まだ眠っているタズキを前に手短な説明をした。


「そういうことか」


 うなずきながら、リバーガはズボンのベルトを外した。タズキの両手両足が背中のうえで合わさるようのけぞらせながらベルトで縛った。


「おい」


 リバーガが爪先で小突くと、タズキはうめきながら起きた。


「ずいぶんとなめた真似をしたみたいだな」


 剣を抜いたリバーガは、タズキのあごの下をちくちくつついた。はっきりと恐怖にかられた表情になるタズキ。


「断っとくが、お前を殺しても別に俺達の懐は痛まないからな。で、なんでトピアを殺そうとした?」

「所長から頼まれた」

「所長!?」


 私もリバーガもヤンブルも、示しあわせたように同時に同じ言葉を叫んだ。


 アック所長。たしかにいけすかない第一印象だった。でも、囚人を殺すような命令を素でだすとは思えない。たしかに、最初からふざけた仕かけばかりでいつ死んでもおかしくない状況ではある。ただし、あとから振りかえると一つ一つに脱出の手はずがあった。唯一の例外はこの小屋に閉じこめられたときくらいで、それもすんだ。


 所長なら、へたに囚人を殺害するよりはできるだけ生かしたまま様々な責め苦を与えるのを選ぶ。結婚詐欺師として、この類の直感には自信があった。それだけに。


「所長がどうしてトピアの命にこだわるんだ?」

「知らない」


 リバーガは、タズキの首筋から血が一筋流れるまで剣に力をこめた。


「し、知らない! 殺せばすぐ恩赦って言われた!」


 恐らく嘘じゃないだろう。タズキのような犯罪者からすれば、このうえなく魅力的なとりひきだ。リバーガやヤンブルならまだしも、私はどう見ても肉体的な訓練を積んでいるとは思えない。さらに、事情を知るまでこちらからは敵意があるとは判断しようがない。


 問題は、なぜ殺さねばならないのか。理由を知りたい。公爵が命令したのかもしれないが、回りくどすぎる。


「で、お前が知ってるのはそれだけか?」

「そうだよ。喋っただろ? さっさと自由にしろよ!」


 リバーガのような人間に、そんな頼みかたは逆効果すぎる。


『残り一』

「おいっ、回り!」


 ヤンブルがすっとんきょうに叫び、思わず私もリバーガもタズキから注意がそれた。


 突然、まったく突然に気づかされた。いつの間にか、床に何人かが転がっている。燕尾服に蝶ネクタイ姿の男性もいれば、メイド服を身につけた女性もいた。どの顔にもばくぜんと覚えがある。


 そうだ。昔、まだ父が健在だったときに私の家にいた使用人達。仕事と給金を与えられ、ごく公平公正に接されていたはずなのに。父の裁判ではそろってでたらめな証言をした。異端の審問官から脅されたのかもしれないが、だからって同情してやる筋あいはない。


「死んでるぜ。こいつも……こいつも」


 ヤンブルが、しゃがんで一人二人と脈をとった。


『おめでとうございます! この階はこれで終わりです! 力をあわせるってすてきなことですよね。絆が一段と高まり、一体感が自然と生まれます。さぁ、四階へ進みましょう!』


 タイミングを見はからったかのように、ターミナルが現れた。

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