表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/78

五、炎上テーブルマナーは虫にでもお食わせ遊ばせ! 三

 ファンファーレよりはましな曲だけど、ますます異様だ。そういえば、看守の背後にある壁にはどこかの聖女を背景にして『できない、やれない、難しいは悪魔の言葉!』とかかれたポスターが貼ってある。


『オーゲン私設刑務所、社会生活矯正プログラムへようこそ。ここでは、皆さんが明るく豊かで快適な社会生活を送る手助けを致します。それでは、食事に入ってください』


 ピアノにそって、物知りお姉さんの棒読みな作り声が流れてきた。看守に対するのとはまた異なる意味で、危うく失笑するところだった。


 タズキ以外の全員が、かけ声もないままほぼ同時にナイフとフォークを手にした。ヤンブルでさえ背をぴんと張っている。


 ピアノはずっと演奏を続けていた。場違いな演出が、室内の熱気とまざって狂気じみた雰囲気を造りあげている。


 水から飲みたいところながら、干からびたり堅かったりする食べ物ばかり。ぎりぎりまで残さないと。


 カチカチきーきーと鋭く甲高い音がして、顔をむけなくともヤンブルだと想像できた。あまり好きな考え方じゃないけど、やっぱり盗賊なんて育ちが知れる。


 他人より自分に集中しなくては。サラダにフォークを突きさして、ゆっくり口に運んだ。


「うわっくそ」


 リバーガが、フォークにつけすぎた野菜の一部をテーブルに落としてしまった。指で拾ってそのまま食べた。


 サラダは大して時間をかけずに終わった。一度ナイフとフォークを仕切り皿の縁に置き、パンを少しちぎった。


 こんなにまずい食事を礼儀正しく味わって食べるのはゆるい拷問だ。幸か不幸か、上流階級相手の結婚詐欺師をしていただけに自分の作法にはそれなりの自信があった。


 私が最後の肉の一きれを平らげたとき、ヤンブルの手元はこぼした水とパンくずだらけだった。リバーガの手は脂身でてらてら光っている。


 さすがに、看守は私と変わらないきれいな食べ方をしていた。


『皆さん、お食事はいかがでしたか? さあ、採点しましょう。今回は、三四七番さんが講師です。では、お願いします』


 テーブルが、食事を促したのと同じ声でタズキを任命した。


「まずあんた。ナイフとフォーク、音たてすぎ。パンは一口ぶんずつちぎってからで、いきなりかぶりつくな。水をがぶ飲みするのもダメだ」


 案の定、ヤンブルがまずやりだまにあがった。


「それからあんた。黙食なのに下品な言葉づかいは二重によくない。テーブルに落ちた食べ物を拾い食いするな。脂身が指につくのも、ついた脂身をなめるのも全部反則」


 次の犠牲者はリバーガ。


「最後にあんた。他の人間の食事をちらちら見るな」


 え……私まで!? そりゃあ、心配になって様子を知りたくはなったけれど。


「看守はなんにも悪いとこなかったよ。以上だ」

『おめでとうございます! 三四七番さん、ついに身につきましたね! その調子で社会復帰を目ざしましょう!』


 ピアノが軽くて陽気な曲を一小節演奏して、聞けば聞くほどイラつく声がおめでたくもタズキの合格を宣言した。いつものファンファーレじゃない。とにかくタズキの姿は消えさった。


「あれっ!? いなくなったぜ」


 ヤンブルが目をむいた。


「合格したら一ぬけだ」

「どこにいくんだ?」

「お前らも合格すればいいだろう。さ、続行だ」


 空になったはずの仕切り皿に、また同じ食事が現れた。さすがにピアノは鳴らないしテーブルは黙ったままだった。


 今度は、音の少なさからしてヤンブルもリバーガもましな食べ方をしているようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ