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五、炎上テーブルマナーは虫にでもお食わせ遊ばせ! 二

「私が説明しよう。この部屋は、『社会生活矯正プログラム』に基づき作られている」


 いきなりわけのわからない言葉がならべられた。


「人間は大なり小なり社会にかかわっているが、食べねば死ぬのは共通している。つまり、社会生活の基本は食事だ。より厳密には、食事の礼儀作法を学ぶのが社会生活の第一歩となる」


 汗まみれの……それは私もふくむ全員が同じだけど……身体から暑苦しい説明が続いた。


「ここで大事なのは、自分だけが礼儀作法をわきまえていても意味がないということだ。気をつけあい、より完成された礼儀作法を追求するのが理想の社会に近づく一歩一歩となる」


 シャバならあくびして回れ右するような理屈をいっしょうけんめい聞かねばならないのは、別な意味で苦痛だった。


「さて、この食卓には人数分の食事がある。一番早く食べた一人の人間だけが、残りの人間が全員食べおえるのを待ったうえで礼儀作法についての指摘ができる。指摘が正しければ点数がたまっていき、ある一定の値になればここから自由になる」

「なら、とっとと食って好きたいほうだい文句いったらいいんだろ?」


 ヤンブルがふざけた口調で混ぜかえした。もっとも、手足が小刻みに震えている。


「礼儀作法を無視した早食いはやり直しになる。


 やり直しがかさめばかさむほど火は勢いが強くなり、しまいには焼け死ぬ」


 だからこんな体たらくなのか。


「どんな基準で礼儀作法を決めてるんだ?」


 リバーガが、もっとも大切な項目に触れた。


「大きくわけて、姿勢と音と清潔さだ。背筋を伸ばす、肘をつけない、黙食、すすらない、噛む音は最小限、食べ物を散らせたりこぼしたりしない」

「最後の一人はどうなりますの?」


 他人を指摘して解放されるなら、必然的にビリが一人残る。


「矯正不能と判断されて焼け死ぬ」

「ならこいつは?」


 リバーガが、無遠慮にタズキを指さした。


「お前達と違ってこの階から出発だ。だから、お前達より有利な立場で参加する。つまり、最初の一回目はタズキは論評するだけだ」

「じょ、冗談じゃねえや! めしごときで殺されるくらいなら、ゾンビの群れの方がまだましだぜ!」

「三五一、席についた以上、あがるか死ぬかだ」


 それがヤンブルの番号か。もっとも、だからなにってわけでもない。


「え……? 椅子が動かねえ。身体も離れねえ」

「そういうことだ、三五一」


 看守の説明はこのうえなく冷たく響いた。

 

「俺たち自身は点数をたしかめられるのか?」


 いかにも元冒険者らしく、リバーガが実務に根ざした質問をした。


「いいや。解放に達すれば、自動的にそれとわかる。一つ警告しておくが、仲間を逃がすつもりで故意に無作法をすると全員が失格だ」

「どうして看守様までご参加しますの?」

「席があるならつかねばならんと考えたからだ」


 看守のそっけない答えに、私は無意味な質問をやめた。


「指摘が間違っていたらどうなるんだ?」


 リバーガの質問は、地味ながら無視できない。


「どうともしない。たんに点数がつかないだけだ」

「一回で点数が足りなかったり、全員が完璧に礼儀を守ったりしたらどうなりますの?」

「前者は純粋に二回目以降に入る。後者は全員同時に解放となる」

「参加者が一人だけなら、審査はどなたがおこなうのでございます?」

「このテーブルがその役目を果たすようになっている。なお、指摘が有効か無効かはあくまでテーブルが判断する。抗議は認められない」

「審査が何回も続いて腹いっぱいになったら?」


 リバーガが、空になったままのタズキの仕切り皿をちらっと目にした。


「残った人間全員が失格だ」

「もういいだろ? いいかげん熱くてたまらないんだ。さっさと食えよ!」

「無作法な発言は減点になるぞ」


 パンツ一丁でも警告は警告だった。タズキは一応おとなしくなった。


『残り十五』

「では、始める」


 看守が宣言したとたん、静かなピアノの音がテーブルから流れ始めた。

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