五、炎上テーブルマナーは虫にでもお食わせ遊ばせ! 一
いきなり燃えた。もののたとえとかじゃない。いきおいよく煙をふきあげる炎に囲まれていた。
辛うじて、少し広い部屋なのは理解できる。壁どころか天井にまで火が回っているものの、床までは燃えてない。中央には大きな丸いテーブルといくつかの椅子が構えてあった。椅子にもテーブルにも荷車を引くロバが描かれている。私達のはもちろん、その三倍はかまえてある。ただし、席の大半は埋まっていた。骸骨で。座った格好のまま、熱でからからにひからびているのが遠目にも知られる。一応、私達が座るだけは空いていた。空席と同じ数だけ下の階で口にしたのと同じ食事がそなえてある。
骸骨だらけかと思ったら例外があった。椅子の一つに、誰かが座っている。照り返しがひどくて顔はよくわからない。その人にも食事が用意されていて、もう空になっていた。
「い、いくらなんでもヤバすぎるだろ!?」
「なら、あなたはそこでたってなさい」
ぴしゃりとヤンブルにいってやったものの、私だってためらっている。
『地下五階へようこそ! ここでは、社会人として基本中の基本……テーブルマナーを学びます! とはいえ、せっかくの機会ですから新しい仲間がいたほうが楽しいですよね? その仲間といっしょに、がんばって勉強してください! 制限時間は二十です!』
いまさらなにを学べっていうんだろう。
「こんにちは。ご機嫌いかが?」
とりあえず、ずっと椅子に座ったままの誰かに私は挨拶した。状況からしてひどく異様な言葉になってしまった。
「はやく座んなよ! あたしまで焼けるだろ!」
口汚い乱暴な言葉づかいに、私は心の中で顔をしかめた。もっとも、おかげで相手が若い女性なのはわかった。
「ごめんあそばせ」
一番近くにある椅子を引いて腰を降ろすと、相手がはっきりした。私より少しだけ若いくらいの女の子で、炎に負けないくらい赤い髪をしている。小柄で細くやせている反面、藍色の瞳は火事のせいだけでなくぎらぎら輝いていた。
「男ども、かかしかよ! 時間ねえんだ、とっとと席につけ!」
私をすかして彼女が怒鳴りつけると、リバーガ達もぞろぞろ歩いて彼女の要望通りにした。
「じゃあ、さっさと食いな」
彼女は私にむけてあごをしゃくった。それはすなわち全員に対して口にしたのと同じだった。
食事の内容は、ヘルハウンドを倒してから食べたものとまったく同じだった。
よく見ると、彼女の仕切り皿は空になっている。
「待て。お前、ルールを知っているはずだな? 抜けがけは許さん」
看守が彼女を牽制したことで、私は確信した。どう考えても特別な理由があるにきまっている。
「パンツ一丁のあんたがなにわめいてんだよ」
「口の利き方に気をつけろ。私は看守だ」
パンツ一丁の看守が胸を張った。彼女でなくとも危うくふきだすところだった。
「はぁっ? 笑わせ……」
「囚人番号三四七、個人名タズキ。罪状は放火殺人、置き引き。父親は漁師、まだ続けるか?」
「ああ、そういうことにしといてやるよ」
ふてぶてしく彼女……タズキは吐きすてた。




