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四、クサいし吸われるし疑われるしでさんざんでございますわ! 八

 私が身につけているのはたしかに彼からとったものだ。おまけに袖だの裾だのをちぎってぼろぼろになっている。


「あー……これは……」

「おいっ、ゾンビが近づいてきたぜ!」


 ヤンブルが合いの手を入れ、看守の気をそらした。実際、ゾンビの腐臭が息苦しいほど濃くなってきている。


「とりあえず出口を教えろ!」


 看守はリバーガに命じた。


「あいにくだが俺もきたばかりだ。ゾンビがきた方にあるのしか知らん」

「右に同じ」


 ヤンブルがリバーガに同調した。


「だいたいその剣は私のものだろう! さっさと返せ」

「嫌だね。なくしたあんたが悪い」

「なくしたんじゃない、盗んだんだろうが! どさくさ紛れに話をすりかえるな!」

「看守だからって上から目線がひどすぎるぜ」


 はっきりと嫌悪感を口にしたヤンブルの台詞に、私は閃くものを感じた。


「あのう……」


 遠慮がちに、私はターミナルを指で示した。殿方達は言い争いをやめた。


「なら、それを伝っていけばゾンビの群れとぶつからずにすむな」


 リバーガが、元冒険者らしく頭を切りかえた。


「善は急げだぜ。早く教えてくれよ」

「ごめんあそばせ」


 わびてから率先して歩きつつ、私もヤンブルに蹴りをいれたくなってきた。


 いざ進んでみると、階段には意外と簡単につけた。ゾンビにまともな知性があるとは思えないから、せいぜい頭上の私達を見あげて右往左往するのが関の山だろう。


 ただ、問題が一つあった。進めば進むほど地面から高く隔たっていくのを意識せざるをえない。何度も何度も止まっては下を眺め、いまさら実感。私は高い場所が苦手だ。


「おい、うしろがつっかえてるぞ」


 リバーガに文句をいわれつつも、足がすくんできた。


「どうしたんだよ、いったい」

「お前は黙ってろ」


 肩ごしに振りかえってヤンブルを一喝したリバーガは、いきなり私の腰に右手を回した。


「きゃああっ!」

「しばらくおとなしくしてろ」


 ずだ袋さながら、自分の肩に私を担いだリバーガはひょいひょい壁際を登っていった。楽といえば楽な一方、頭が地面をむいているせいで髪がさかだって血が昇ってくる。暴れていい状況じゃないのは当然としても、もっとこう……やり方というものが。


 あっ、そういう問題じゃない。そもそも、殿方に抱えられるだなんて生まれて初めて……! か、顔が熱くなっているのは逆さになっているせいよっ!


「ついた」


 ようやく降ろしてもらった。


「も、もう少し……その……」

「お姫様抱っことかぐわっ!」


 ヤンブルの脛を思いきり蹴ってやった。


「をほほほほほ。足が滑りましたの。ごめんあそばせ」

「五階にいったらすぐに懲罰房だ。忘れるな」


 正直、看守まではついてきて欲しくない。仕方ないけど。


 看守、ヤンブルとターミナルを使い、リバーが三番目だった。こっちに振りむいてくれるかなと思ったら、そのままターミナルにさわって消えた。私もすぐにそうした。

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