四、クサいし吸われるし疑われるしでさんざんでございますわ! 七
リバーガは、いったん剣を拾って鞘に納めた。そのうえで、ヤンブルの脇腹に爪先をめりこませた。
「うげえっ!」
「さっさと起きろ!」
リバーガが一喝すると、ヤンブルは頭をなで回しながらどうにかたった。
「トピアがいなけりゃ、てめーをなぶり殺しにしたところだ。俺たちの役にたつんだろうな?」
「あ? ああ、あんた、リバーガとか……」
リバーガが、古傷だらけの右拳を振りあげた。ヤンブルは口を閉じた。
「わ、わかったよ。どうせ俺一人じゃこの先進めねえのは想像がつく。俺の盗みの腕がこの先役にたつからさ。トピア……さんもなんとか言ってくれよ!」
「トピアで構いませんわ。仲間ですもの」
「なに!?」
仰天したのはリバーガの方だ。
「もうわかったでしょう? 私たちがいがみあっても有害無益です。少なくともここをでるまでは助けあうのが妥当ですわ」
リバーガは、じっくりとヤンブルをねめつけた。ヤンブルは首を縮めてがたがたふるえている。
「ふんっ。次はねえぜ」
「へ……へへっ。もちろんだぜ。な、仲間だろ仲間。リバーガ、トピア」
「気安く呼ぶな!」
リバーガは声を張った。ヤンブルは口元だけ笑ってみせた。
『おめでとうございます! 階段の守護者を倒し、かけがえのない仲間もできましたね! でも、ちょっとまってください。転移ターミナルは、予算の都合でここからすこし離れた場所にあります。皆さんご協力くださいね』
さっさと次にいきたいのに。ターミナルの黄色い光を求めて顔をめぐらせると、洞窟の壁の半ばほどの高さにあった。目をこらすと階段もついている。
「とにかく、すぐにでも上の階にいかないと」
少しだけ間を置いてから、私は促した。そんなときに、ばたばた走ってくる足音が出入口から響いてきた。リバーガは剣を抜いて身体を音のする方へむけた。
「なんだありゃ?」
ヤンブルでなくとも、ちょっと理解しにくい。パンツ一丁の若い男性が必死になってこちらへ走ってくる。ある程度近づいてきて誰かわかった。下の階にいた看守だ。つまり、リバーガに身ぐるみはがれてからなにも変わってない。笑っていいのか不気味に思っていいのか判断がつかなかった。
「あっ、お前らは脱獄犯だな! おとなしく懲罰房に入れ!」
「看守には、直接危害をくわえない限り従う必要はないみたいですわ」
看守を無視して、簡潔に私は自分の考えをリバーガ達に伝えた。この意見には自信があった。そうでないと、今までの状況と噛みあわない。
「こいつ、なめた口を!」
「お取りこみ中すまんが、あそこの連中はあんたの部下か?」
リバーガがあごをしゃくるように剣を……当の看守から奪ったものだ……振った。看守のあとを追うように、ゆらゆらと手をつきだしながら少なくとも数十人のゾンビが歩いてくる。
「違う!」
「じゃ、逃げてきたってわけね」
ヤンブルがまぜ返した。
「ふざけるな! 私は身の危険をかわしながら職務を遂行しているにすぎん」
「なら、せめてなにか着ろよ。ちょうどそこに、倒れてる奴がいるだろ」
リバーガが、空いている方の左手で拷問係の死体を示した。
「私は看守だ! いや、待て。お前、ひょっとしてそれは私の制服か?」
いきなりお鉢が回ってきた。




